
ソフトより先に、手に持つものを替えた。
現場の道具を替えた事例10選
塗装ブースの作業着を替えたら、熱中症がゼロになった。カシメの道具を替えたら、2〜3分の作業が5秒になった。券売機をセルフレジに替えたら、客単価が120%になった。この10本に共通するのは、変えたのがシステムではなく、現場の人が毎日手に持つものだという点だ。ウェア、アーム、ハンディ、ラベルプリンター、スマートグラス、ドローン、マイク。仕組みを変える前に道具を替えた10社が、何をどれだけ変えたのかを、工場から田んぼ、デイケアまで、成果の数字で並べた。
選定の基準と範囲:当サイトの掲載事例5,469件のうち、現場の作業者が直接手に持つ・身につける・操作する道具や機器(ウェア、助力装置、ハンディターミナル、プリンター、レジ、スマートグラス、ドローン、音声機器など)の導入・交換を主な施策とし、数値成果が公開されている41件から、道具の種類と現場(製造・物流・飲食・農業・公共・医療・教育)が重ならないように編集部が10本を選んだ(同一ベンダーは最大2本まで。別テーマの10選で取り上げた事例は除く)。順位ではなく並列の「選」であり、製品の優劣や市場の代表性を示すものではない。数字はいずれも各事例の公開情報に記載のもので、対象・期間は各事例記事から確認できる。
登場サービスの提供企業へ、編集部がまとめてお取り次ぎします(次の画面で選択を外せます)。
0140℃の塗装ブースで、熱中症がゼロになった
日本フルハーフ株式会社 厚木工場 ・ 製造業
輸送用機器を製造する日本フルハーフの厚木工場では、粉体塗装の工程で夏場のブース内温度が40℃を超え、防護服を着た作業員が過酷な熱環境にさらされていた。保冷材では効果が足りず、熱中症の発症を防げていなかった。密着性と軽さ、脱着のしやすさを確かめたうえで冷却ウェアを導入すると、熱中症の発症はゼロに。休憩時の心拍数は110〜120から100前後に下がり、保冷材を準備して交換する手間も消えた。設備ではなく作業着を替えた、つかみの1本。
粉体塗装ブースの高温環境で熱中症ゼロを達成、作業効率も向上この事例の詳細を読む →0250kgの砥石を、1人で運べるようになった
髙藏工業株式会社 ・ 製造業 ・ 女性比率50%以上、シニア社員在籍
髙藏工業の製造現場は女性比率が50%以上でシニア社員も働いているが、50kgを超える研削砥石の搬送が手作業で、身体への負担が大きかった。搬送工程そのものを自動化するのは難しい。選んだのは台車式で移動でき、天井工事も要らない助力装置。複数の場所で重量物を扱えるようにし、搬送は2人がかりから1人に。自動化できない工程には、持ち運べる道具で手を入れた。
032〜3分のカシメが5秒になり、不良がゼロになった
川村義肢株式会社 ・ 製造業
義肢装具を製造する川村義肢では、手カシメやハンドプレスによるカシメ加工で作業者の熟練度によって仕上がりがばらつき、最終検査でNGになる製品が全体の1〜2割あった。力の要る作業で、特に女性作業者の負担が大きかった。空圧式のリベッティングマシンを入れ、オーダーメイド製品の多様な形状に合わせて治具を社内で製作して運用。加工時間は2〜3分から5秒、不良率はゼロになり、現在は3台が稼働している。熟練と腕力を、道具に渡した。
カシメ加工の機械化により不良率ゼロ・加工時間を2~3分から5秒に短縮この事例の詳細を読む →04トラックに積んだ後の検品で、出荷ミスがゼロになった
ホクシン株式会社 ・ 製造業 ・ 月800台分の出荷実績
月800台を出荷するホクシンでは、トラック積み込み時の検品で品番・等級・サイズ・数量の見間違いが起き、納品後に発覚すると往復の運賃がかかっていた。月1〜2回の発生で年間数百万円の損失リスクがあった。ハンディターミナルを積み込み後の検品に使い、商品ラベルのQRコードから4項目を一括で読み取る方式に変更。初回打ち合わせから約2ヶ月で導入し、出荷ミスはゼロ、再配送コストは30万円削減、検品時間は1分から約30秒に。目で見る検品を、読み取る検品に替えた1本。
05400品目の期限ラベルが、3〜5分から数秒になった
ロイヤルホスト株式会社 ・ 飲食・食品 ・ 従業員約4,000名(含パート・アルバイト)
ロイヤルホストの店舗では、約400品目の食材について、紙のリストと照らし合わせながらスタッフが消費期限・賞味期限をラベルに手で印字しており、作業負荷が高く、ヒューマンエラーも起きていた。タッチパネル式のラベルプリンターを入れ、本部が食材管理リストをデータで一元管理・配信し、店舗ではタッチパネルで項目を選ぶだけでラベルが出る仕組みにした。2018年6月に試験導入、9月に全店舗へ。印字作業は3〜5分から数秒になり、ヒューマンエラーは解消した。紙のリストは、プリンターの画面に移った。
06券売機をセルフレジにしたら、客単価が120%になった
ラーメン暖暮 ・ 飲食・食品
ラーメン暖暮では、現金券売機まわりに置き場所、高額紙幣の扱い、故障、返金対応、両替といった課題が集まっていた。外国人客からはキャッシュレスへの要望もあった。券売機をセルフレジに替えてキャッシュレス決済に対応し、オプション注文がしやすいように画面を設計。客単価は120%に上がり、現金トラブル・両替・振込はゼロになった。注文の道具を替えると、売上の数字まで動いた。
07下水道の現場に出る職員が、2名から1名になった
三重県伊賀市 上下水道部 ・ 自治体・公共 ・ 職員1,274名(市全体)
三重県伊賀市の上下水道部は、32の処理区を少ない人数で管理し、市民からの緊急通報への対応に追われていた。通話や写真では現場の状況が伝わらず、上水道か下水道かの判断に時間がかかり、時間外労働が増えていた。スマートグラスとスマートフォンで現場の映像と音声を事務所にリアルタイムで共有し、話す順番を待たずに同時に発話できる体制を整えた。現場に出る職員は2名から1名に。見に行く人数を、道具で減らした。
083日かかった散布が、ドローンで1.5日になった
髙橋 和久 ・ 飲食・食品 ・ 個人農業経営
水稲5ha、麦5ha、じゃがいも1haを営む髙橋さんの農業経営では、ブームスプレイヤーや動噴での散布作業に3日かかり、労力が大きかった。飛び地では特に効率が悪い。農業用ドローンを入れて水稲の雑草防除・病害虫防除と麦の赤カビ防除に使い、軽トラック1台で回る運用に変えた。散布作業は3日から1.5日、1日の散布面積は10町歩以上になり、使用歴は4年に及ぶ。個人経営の田んぼでも、道具は4年続いている。
農業用ドローン導入で散布作業を3日から1.5日に短縮この事例の詳細を読む →09図書館の本を運ぶのをやめたら、授業が80分から50分になった
東京学芸大学附属竹早中学校 ・ 教育
東京学芸大学附属竹早中学校では、授業で使う書籍を地域の図書館から借り、生徒の人数分を持ち運んで配布・回収・確認する作業が授業準備の負担になっていた。家庭科の被服室にタブレット端末16台を置き、生徒がレシピサイトや検索サイトで献立や食材を調べる授業に設計し直した。パスワード設定やOSのバージョン管理は外部の支援を受けて解決。授業時間は80分から50分になった。先生の手から、本の束を下ろした。
10マイクを替えたら、認知機能の検査が30分から10分台になった
福岡空港のデイケア施設 ・ 医療・介護
福岡空港のデイケア施設では、利用者からの反応が乏しく、職員が何度も聞き返し、大きな声を張り続けることが精神的な負担になっていた。普通のマイクの代わりに、聴き取りやすさを高める音声拡大装置を2019年4月から使い始めると、利用者が反応しやすくなり、認知機能評価スケール(HDS-R)の実施時間は30分程度から10〜15分に短縮された。声を張る職員ではなく、声を届ける道具を替えた、締めの1本。
身体が覚えている作業に、道具は効く
10本を並べると、道具を替えて効いた場所がはっきりする。暑さ(日本フルハーフ)、重さ(髙藏工業)、力と熟練(川村義肢)、目視(ホクシン、ロイヤルホスト)、声(デイケア施設)。どれも作業者の身体が引き受けていた負担だ。システムは情報の流れを変えるが、身体の負担は手に持つものを替えないと減らない。もうひとつの共通項は、変えた範囲の小ささにある。作業着1着、助力装置1台、プリンター1台、マイク1本。工程の全体を設計し直した会社はなく、どこも負担が集中している一点に道具を当てている。それでも出荷ミスはゼロになり、不良はゼロになり、客単価は120%になった。次の一歩は、自社の現場で一番きつい動作を一つ挙げること。持ち上げる、照合する、声を張る、現場まで行く。その動作の名前が分かれば、この10本の中に替える道具の候補がある。
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