「うちの仕事は在宅無理」は、どこまで本当か。
テレワークと現場の温度差を埋めた事例10選
テレワークができる部門と、できない現場。ハンコのために出社する管理部門と、そもそも持ち場を離れられない工場・店舗・工事現場——ハイブリッド勤務の悩みの正体は、この「温度差」だ。実際に温度差を埋めた10社を並べると、打ち手は4つに分かれる。出社の理由を道具ごと消す。現場には在宅ではない形の柔軟性を設計する。リモートで見えなくなった労働時間と心を、見える仕組みに載せる。そしてオフィスを「出社する価値のある日」のために作り直す。稟議のハンコから4拠点の本社統合まで、成果の数字で並べた。
選定の基準と範囲:当サイトの掲載事例3,581件のうち、テレワーク・ハイブリッド勤務の導入・運用改善(出社前提業務の解体・現場職への柔軟性の設計・リモート環境の可視化・オフィス再設計)を扱い、数値成果が公開されている事例から、局面が重ならないように編集部が10本を選んだ(同一ベンダーは最大2本まで。別テーマの10選で取り上げた事例は除く)。順位ではなく並列の「選」であり、製品の優劣や市場の代表性を示すものではない。数字はいずれも各事例の公開情報に記載のもので、対象・期間は各事例記事から確認できる。
登場サービスの提供企業へ、編集部がまとめてお取り次ぎします(次の画面で選択を外せます)。
01紙とハンコの稟議をやめたら、8.8日が5.5日になった
株式会社アイネス ・ IT・ソフトウェア ・ 従業員1500名
従業員1,500名のアイネスでは、購入稟議などの間接業務が紙とExcelをメール・FAXで回す運用で、認識の行き違いと進捗遅れが常態化し、承認のための出社も残っていた。稟議・申請・問い合わせの3業務からワークフロー化を始め、間接部門が自分でフローを設定できる体制にして約10部門40業務へ拡大。購入稟議の処理は8.8日から5.5日に短縮された。「出社の理由」の筆頭——ハンコと紙——を消した、最初の1本。
02固定電話を手放した4,000人が、3秒で相手を見つけられるようになった
日本航空株式会社 ・ その他 ・ 従業員11,449名(連結32,753名)
日本航空では、間接部門4,000人のテレワーク移行にあたり、固定電話と「部署単位の電話取り次ぎ」が壁になった。4万5千件の社内電話帳をスマートフォンからフリーワードで検索できる基盤に載せ替え、業務内容から担当者を直接探して3秒以内に表示。取り次ぐ人がいなくても電話が回る状態を作った。「電話番のための出社」を解体した1本。
03「電話を受ける仕事」が、出社しなくてもできるようになった
株式会社ミスミグループ本社 ・ 製造業 ・ 大企業
ミスミグループ本社のコールセンターは、オンプレミスの設備ではリモート対応ができず、コロナ禍で場所に縛られない体制が急務だった。クラウドのコンタクトセンター基盤へ20席弱でスモールスタートし、1ヶ月単位の改善を繰り返して半年で100席、最終的に350席まで拡大。応答率は97%を超えた。出社必須の代表格だった「電話を受ける仕事」も、設備を変えれば場所から自由になると示す1本。
ミスミグループ、Amazon Connectで350席へ横展開、応答率97%超を実現この事例の詳細を読む →04使いにくかったリモート環境を直したら、利用者が1.5倍になった
豊田自動織機 ・ 製造業 ・ 大企業
豊田自動織機では、育児・介護による人材流出を防ぐためにリモートワーク環境が必要だったが、従来の仕組みは操作が煩雑でサポート負荷が高く、使えるデバイスも限られていた。証明書による二要素認証を約1,300台に整備してiPadなど多様なデバイスに対応させ、利用者は1.5倍、満足度は82%、月200件程度あったヘルプデスク問い合わせは大幅に減少。制度があっても使いにくければ広がらない——「使いやすさ」が普及率だった1本。
05現場は在宅にできない——だから「直行直帰」で柔軟にした
株式会社アイペック ・ 建設・不動産 ・ 従業員70名
非破壊検査のアイペック(従業員70名)の主戦場は現場で、在宅勤務にはなじまない。そこで現場へ家から直接向かい直接帰るスマートムーブ制度を軸に、フリーアドレス・コアタイムなしのフレックス・テレワークを組み合わせ、浮いた通勤時間を毎週の自己啓発支援タイムに振り向けた。資格試験の受験者は23名から50名に、合格率は39%から54%に上がった。現場職への公平は「同じ制度」ではなく「同じだけの柔軟性」だと示す1本。
06在宅の見えない夜間・休日労働が、6割減った
株式会社MCEAホールディングス ・ IT・ソフトウェア ・ 従業員1~99名
従業員の約半数がリモートで働くMCEAホールディングスでは、クラウド移行後の利用状況が見えず、夜間・休日に働き続ける社員を把握できなかった。監査ログを見やすく整えて勤怠データと突き合わせ、ポリシー違反の操作は本人と管理者へ即時通知する仕組みに。長時間労働は約60%削減、総務部門の業務時間も約60%減った。テレワークの影——「見えない残業」——に仕組みで光を当てた1本。
07顔が見えない部下の変化を、月1回のサーベイが拾うようになった
トヨタコネクティッド株式会社 ・ IT・ソフトウェア ・ 従業員2000〜2999名
従業員2,000名超のトヨタコネクティッドでは、テレワークの定着で従業員の心身の変化が見えにくくなり、年1回のストレスチェックでは日々の変化を拾えなかった。月1回のパルスサーベイでストレス反応や他者との関係性を定点観測し、組織長がマネジメントの材料に、本人にはセルフケアのきっかけに使う運用へ。回答率は8割近くを維持している。雑談で気づけていたことを、仕組みで気づけるようにした1本。
08会社の外に出た端末の棚卸しが、2週間から数日になった
株式会社ユーグレナ ・ その他 ・ 従業員100~299名
従業員100〜299名のユーグレナでは、テレワークで業務端末が社外に散らばり、オンプレミスの資産管理ではログをリアルタイムに取れず、サーバー容量も限界だった。クラウド型のIT資産管理へ移行してPC・スマホを一元管理し、全端末の棚卸しは2週間以上から数日程度に。人が散らばるなら、管理する側もクラウドへ——情シスから見たハイブリッド勤務の土台を作った1本。
09座席を3割減らして、話す場所を2.65倍にした
オリックス銀行株式会社 ・ 金融・保険 ・ 従業員約438名
従業員約438名のオリックス銀行では、人員増で一部が過密になる一方、出張や在宅で使われない席も多く、組織が変わるたびにレイアウト変更が必要だった。固定席をやめて業務内容で場所を選ぶ働き方(ABW)に切り替え、座席数は3割削減、カフェラウンジやスタジオなどコミュニケーションスペースは265%に拡大。出社の日を「作業の日」ではなく「人と会う日」に作り替えた1本。
座席数3割削減でハイブリッドワークに対応、コミュニケーションスペースを265%増加させたオフィスリニューアルこの事例の詳細を読む →104つに散った本社を1つにしたら、出社が増えた
大樹生命保険株式会社 ・ 金融・保険 ・ 全国54支社393営業部・営業室の従業員1,500名規模
従業員1,500名規模の大樹生命保険では、本社機能が都内4箇所に分散し、コロナ禍も重なって対面のコミュニケーションが薄れていた。各部門から約50人を集めたワークショップで働き方を可視化し、「オフィスに集う」をコンセプトに約14,000㎡へ統合。リモートを週2日から週1日に減らした部門も出るほど、自然と出社が増えた。出社率は命令ではなく設計で変わる——温度差の最後の答えを示す、締めの1本。
4拠点分散の本社を1箇所に集約し、ABWによるコミュニケーション活性化と出社率向上を実現この事例の詳細を読む →温度差の正体は、制度の差ではなく道具と設計の差だった
10本を並べると、「うちの仕事は在宅無理」の中身が分解できる。まず、出社を強いていたのは業務ではなく道具だった——ハンコ(アイネス)、固定電話(日本航空)、オンプレの設備(ミスミ)。道具を替えたら、その仕事は場所を選ばなくなった。次に、本当に現場を離れられない仕事には、在宅ではない柔軟性が設計できる——直行直帰と自己啓発の時間(アイペック)、使いやすいリモート環境そのもの(豊田自動織機)。現場への公平は「同じ制度」ではなく「同じだけの配慮」だ。第三に、リモートは労働時間(MCEA)、心の変化(トヨタコネクティッド)、端末(ユーグレナ)を見えなくする——見えないままにせず、仕組みで見えるようにするのが運用の本体だった。最後に、オフィスの再設計(オリックス銀行・大樹生命)。出社かリモートかの二択ではなく、「出社する日に何をするか」を決めると温度差は縮む。次の一歩は、自社の「出社しなければできない業務」を現場と本社の両方で書き出すことだ。リストの中の何割かは、仕事の本質ではなく道具の都合でそこに載っている。
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