事例解体新書#0012026.09.04

紙を「読む」会社と、「なくす」会社。
道が分かれた場所はどこか

紙の書類とハンコの悩みは、当サイトに集まる事例に繰り返し現れる。そして並べて読むと、気づくことがある——同じ悩みなのに、行き先が一つではないのだ。日清食品ホールディングスは、年間30万枚の紙の請求書を「読む機械」(AI-OCR)に任せた。社会福祉法人ふらいは、月15時間を奪っていた契約書の紙そのものを「なくす契約」(電子契約)に置き換えた。規模も業種もまるで違うが、出発点の悩みは同じで、打ち手はきれいに割れている。だから、この2本を突き合わせる。どちらが正解かを決めるためではない。同じ悩みを抱えた会社が「自社はどちらの道に近いのか」を見極めるための、分かれ目を探しに行く。

飲食・食品従業員1万4千人超

日清食品ホールディングス株式会社

選んだ道

読む機械

AI-OCRで紙を読み取り、既存の承認システムへ流す

ペーパーレス・はんこレス化率

74%

医療・介護従業員101~300名

社会福祉法人ふらい

選んだ道

なくす契約

契約を電子化し、紙の発生そのものを断つ

契約業務時間

月15時間→7時間(約53%削減)

同じ悩み

請求書処理が紙ベースで行われており、年間30万枚の紙処理と年間7万時間以上の業務工数を要していた。また、紙提出と押印のためにテレワークが困難だった。
日清食品ホールディングス株式会社従業員1万4千人超)の事例より資料 →
大量の紙契約書とクーポン券による複数形式の契約管理と、50名以上の職員による個別契約の署名押印手続きにより、月15時間以上の業務時間を費やしていた。現場では同じ書類を何度も作成・修正する手間が発生していた。
社会福祉法人ふらい従業員101~300名)の事例より資料 →

困りごとのタグはほぼ重なる(#紙の書類処理、#手作業の転記、#押印・承認の遅れ)。紙が届く。ハンコを押す。人が転記する。ここまでは同じ物語だ。

分かれた決断

Aの道:紙を「読む」

Concur InvoiceをメインシステムとしてRemota(AI-OCR)を導入し、請求書の受け取りをデータ化。PDF請求書をRemotaで読み取り、Concur Invoiceへ取り込むことで、受領から入力・承認・保管までをペーパーレス・はんこレス化した。

日清食品ホールディングス株式会社/製品:Remota(AI-OCRソリューション)、Concur InvoiceAI・データ分析

Bの道:紙を「なくす」

4社のベンダーを比較検討し、既存のWordやPDFの契約書フォーマットをそのまま流用でき、簡単な操作で署名押印ができるfreeeサインを選定。電子契約システムを導入し、現場主導でスムーズに運用を進めた。

社会福祉法人ふらい/製品:freeeサイン業務SaaS

なぜ分かれたか

※ここから先は、公開情報を突き合わせた編集部の推理です。両社の実際の意思決定過程は、当事者のみが知ります。

読み1片方は届いた後、片方は生まれる前

まず認めておくべきことがある——この2つの道は、両立する。請求書はAI-OCRで読み、契約書は電子契約でなくす。両方導入する会社は普通にある。だから比較の核心は製品の違いではない。日清食品HDが手を入れたのは「紙が届いた後」だ。受領から入力・承認・保管までの処理を機械に渡し、紙が来ること自体は受け入れた。ふらいが手を入れたのは「紙が生まれる前」。契約の工程そのものを電子に置き換えて、発生を断った。同じ「紙とハンコ」の悩みでも、業務のどこに手を入れたか——ここが本当の分かれ道である。

読み2その紙は、どこから来るのか

では、なぜ手を入れる場所が分かれたのか。ひとつの見方は、紙の出どころだ。日清の紙は取引先から届く請求書で、発生を止めるには相手ごとの合意がいる。ふらいの紙は自分たちで作る契約書で、発生の仕組みが比較的手の内にあった。ただし、これは言い切れるほど単純ではない。届く請求書だって取引先に電子化を依頼できるし、自社の契約書も相手の同意なしには電子にならない。しかも今回の2社は「請求書と契約書」という業務の違いまで重なっていて、2本の事例だけで決定要因を切り分けることはできない。それでも——「その紙が発生する仕組みを、自社はどこまで変えられるか」。その見極めに入る最初の問いとして、出どころは今も役に立つ。

読み3二社とも、先に残すものを決めていた

対比ばかり見ていると見落とすが、2社には共通点がある。日清は既存の承認システムという枠組みを残し、入口だけを変えた。ふらいは既存のWordやPDFの契約書式を残し、署名押印の工程だけを変えた。「1万4千人だから基幹は替えられない」「300名だから身軽だった」という読みは、公開情報からの推し量りの域を出ない。だが「変える場所より先に、残す場所を決めている」ことは、両社の記述からそのまま読める。全部は変えない。残すものを決めてから、変える一点を選ぶ——分かれ道の作法は、むしろ同じだった。

読み4組織の時間と、担当者の時間

結果の数字は対照的だ。日清は年間約2万4千時間——組織の数字。ふらいは月15時間が7時間に——担当者の手触りの数字。どちらが優れているという話ではない。自社に引きつけて読むなら、順番はこうだ。まず「誰の、どの作業時間を減らしたいのか」を決める。そのうえで、自社と同じ単位で成果が語られている事例を参考にする。数字の大小より先に、単位が合っているかを見る。

第三の会社で照らす

「出どころ」と「変えた場所」という見方が、別の事例でも通るか照らし合わせてみる。グループ44社の経理業務を受託するシェアードサービス会社——届く紙は他社発の請求書の束で、発生を止めるための合意相手は44社の先、無数の取引先に散らばっている。

エイチ・ツー・オー リテイリング、AI-OCR「Remota」で請求書処理を電子化・自動化

小売・EC/選んだ道:Remota(AI-OCR)

7割強

この会社が選んだのもAI-OCR——届いた後を変える道だった。断っておくと、一致する事例がひとつ増えただけで、選択の原因を確かめたことにはならない。それでも「どこを変え、どこを残すか」という読み筋は、この事例にもそのまま当てはまる。

あなたの会社なら

問1. その紙をなくすには、誰の合意が必要か

合意の相手が社外に散らばるほど「なくす」道は遠くなる。まず、なくしたい紙ごとに合意の範囲を数える。

問2. 発行・受領・転記・承認・保管——どの工程が最も重いか

一番手間の重い工程が「変える一点」の候補になる。届いた後の処理が重いなら読む道、発生の工程そのものが重いならなくす道が近い。

問3. 既存のシステムや書式のうち、残す必要があるものは何か

基幹を残すなら入口の機械化、書式を残すなら工程の電子化。2社に共通していたのは、変える場所より先に「残すもの」を決めていたことだ。

解体を終えて

ベンダーの事例は「なぜこの製品か」を語るが、「どこを変えて、どこを残したのか」までは語らない。2本を向かい合わせて見えてきたのは、正反対の道を選んだ2社ではなく、変える場所と残す場所をそれぞれに選んだ2社だった。同じ悩みの分かれ道は、この2本の他にもデータの中に眠っている。次号も1つ、解体する。

この記事に登場したサービス

記事で取り上げた事例で導入されていたサービスの一覧です(掲載データに基づく表記で、優劣や推奨を示すものではありません)。

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