事例解体新書#005
建設・不動産×医療・介護

住宅リフォームの現場と、海を渡る貨物。
「見に行かないと分からない」は同じ病か

片方は、職人と協力会社が動く住宅リフォームの現場。もう片方は、船会社と海外法人がまたがる国際物流。扱うものも、業界の言葉も、まるで違う。それなのに2つの事例の課題文は、奇妙に似たことを言っている——知りたい情報は確かにどこかにあるのに、そこへ「戻る」「電話する」「メールを数往復する」しかない。業種は違っても、情報が途切れる場所は同じなのか。2つの現場を突き合わせて、共通する構造と、互いの業界から借りられる工夫を読む。

一見遠い、2つの現場

建設の現場

株式会社カスケホーム

建設・不動産 ・ 従業員規模不明、年間工事件数3500件、6店舗展開

年間3500件の工事を6店舗で回すリフォーム会社。職人・協力会社とのやりとりはファックスと電話が中心で、見積りや売上見込みは複数のシステムと表計算ソフトに分かれていた。現場にいる人が状況を知るには、事務所に戻るしかなかった。

協力会社や職人との情報共有がファックスと電話中心で多くの時間を要しており、見積りや売上見込みが複数システムと表計算ソフトで管理されていたため現場から事務所に戻らないと状況がわからない状態だった。

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国際物流の現場

日本光電工業株式会社

医療・介護 ・ 大企業

医療機器メーカーの輸出入部門。貨物の情報は年間数千行のExcelに手入力され、数十種類の書類が数十箇所に保存されていた。海外現地法人が出荷状況を知るには、日本本社へメールを送り、数往復のやりとりを待つしかなかった。

年間数千行に及ぶExcelの手入力管理、数十種類の書類を数十箇所に保存・管理する属人的な業務フロー、海外現地法人からの問い合わせに数往復のメール対応が必要な情報のブラックボックス化が課題でした。また、洋上在庫の把握ができず、最適な輸送ルート選択が困難な状況でした。

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共通する仕事の構造

2つの課題文を分解すると、業種の言葉を外したところに同じ骨組みが現れる。仕事をする人と、情報の置き場所が離れている。情報は一カ所——事務所のシステムと表計算、本社の書類とExcel——に、そこにいる人の手で書き込まれている。だから離れた場所にいる人は、情報を「取りに行く」しかない。移動か、電話か、メールの往復か。手段は業界ごとに違っても、途切れている場所は同じ、「置き場所が一つで、書ける人もそこにいる」という点である。

建設の現場国際物流の現場
離れた場所にいる人現場の監督・職人・協力会社。日中は工事現場にいて、事務所にはいない。海外現地法人の担当者。時差の向こうにいて、日本本社のファイルは見えない。
情報の置き場所事務所の複数システムと表計算ソフト。案件・見積り・売上見込みがそこに分かれて入る。日本本社のExcel(年間数千行を手入力)と、数十箇所に保存された数十種類の書類。
取りに行く方法現場から事務所に戻る。急ぎはファックスと電話。本社へメールを送り、数往復して回答を待つ。
打った手問い合わせから見積もり、現場管理、入金処理までを一つのクラウドに載せ、どこからでも見える状態にした。物流情報を一つのコンソールに集約・可視化し、現地法人も同じ情報を見られる状態にした。

断っておくと、両社が導入した製品はまったく別のもので、業務の中身も比較できるほど同じではない。ここで共通しているのは製品ではなく、「置き場所を一つにして、離れた人が取りに行かなくて済むようにする」という手の入れ方の骨組みである。成果の数字——建設側は残業が月40〜50時間から10時間以上削減、物流側は輸出実務で月約314時間・海外法人側で月約120時間の削減——も、それぞれ他の施策や状況を含んだ数字であり、この骨組みだけの効果とは言えない。

異業種から借りられる工夫

※「借りられる」は、事例本文で確認できる取り組みを、別の業種の状況に置いてみる編集部の読みです。 その業種で同じ効果が出ることを保証するものではありません。

工夫1全部を一度に、載せ替えない

建設側の事例は、2019年にまず施工管理だけを導入し、その後に受発注、引合粗利管理へと段階的に広げている。最初の一歩を「現場の写真と図面」という毎日触るものに絞り、慣れてから金の流れに進んだ順番が本文から読める。部門も社外関係者も多い物流の載せ替えで「どこから入れるか」を決めるとき、この「毎日触るものから」という順番の付け方は業種を越えて借りられる発想だ。

工夫2道具より先に、人を集める

物流側の事例は、導入にあたって現場主導のプロジェクトチームを立ち上げ、ベテラン社員を含む組織全体の意識変革を図ったと明記している。数十箇所に散った書類の置き場所を一つにするとは、ベテランの手の内にあった仕事の進め方を変えることでもある——だから道具の前に人を集めた、と読める。職人や協力会社という「社外のベテラン」を巻き込む建設の導入にも、まず現場の人を設計に入れるこの始め方は持ち込める。

そのまま持ち込めない条件

巻き込む相手の近さが違う

建設側が巻き込んだのは、継続的に付き合いのある職人・協力会社。物流側の情報源には船会社など、自社からは変えられない外部も含まれる。「置き場所を一つにする」に誰の協力が要るかは、業界というより取引構造で決まる。自社の相手がどちらに近いかを先に確かめたい。

情報の生まれる場所が違う

建設現場の進捗や写真は自社と協力会社が生む情報で、発生源から変えられる。船の動静は外部で生まれる情報で、自動で取り込む仕組みの有無に依存する。同じ「一元化」でも、情報を集める難易度は出どころで変わる。

2事例から一般論は導けない

ここで読んだ構造は、この2本の事例の記述に共通していたものであり、「情報共有の課題はすべてこの構造だ」とは言えない。自社の課題文を書いてみて、この骨組み——置き場所が一つ、書ける人がそこにいる、他の人は取りに行く——に当てはまるかどうかが、この記事を使えるかどうかの分かれ目になる。

同じ業種の事例だけを探していると、この2本が並ぶことはない。だが「誰が、どこに置かれた情報を、どうやって取りに行っているか」という言葉に直した瞬間、住宅リフォームの現場監督と海外法人の担当者は、同じ場所で立ち止まっていた。事例を業種で検索する前に、自社の困りごとを業種の言葉を外して書いてみる——それだけで、参考にできる事例の範囲は自分の業界の外へ広がる。

この記事に登場したサービス

記事で取り上げた事例で導入されていたサービスの一覧です(掲載データに基づく表記で、優劣や推奨を示すものではありません)。

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