
「リードビジネス」を理解していないBtoB企業が陥る罠~一発勝負の営業体質が、成果を遠ざける理由~
製造業に限らず、**ほとんどのBtoBビジネスは「リードビジネス」**です。
にもかかわらず、現場ではこの前提を理解していないまま、
「商談=クロージングの場」として扱ってしまうケースが少なくありません。
その結果、せっかくの見込み顧客(リード)との関係を早々に壊してしまったり、
無理に売り込む姿勢が信頼を損なったりと、
長期的な売上機会を自ら手放している企業が数多く存在します。
この記事では、
「リードビジネス」という概念を理解していないことによって起こる弊害を整理しながら、
製造業BtoBの営業・マーケティング体質をどう変えていくべきかを考えます。
リードビジネスとは何か
まず前提として、リードビジネスとは、
「すぐに買う人」ではなく、「将来的に買う可能性がある人」と関係を築くビジネスモデルです。
BtoBの購買プロセスは長く、意思決定には複数人が関わります。
そのため、1回の商談で即決することなどほとんどありません。
多くの場合、顧客は以下のような段階を経て意思決定します。
| フェーズ | 顧客の状態 | 企業側がやるべきこと |
|---|---|---|
| 認知 | 存在を知った段階 | 技術情報・事例紹介・展示会などで接点を作る |
| 興味・関心 | 詳しく知りたい段階 | ホワイトペーパー・比較資料・セミナー |
| 比較・検討 | 他社と比べている段階 | 実績紹介・ROI・導入サポート情報 |
| 導入・稟議 | 社内を説得中 | 提案資料・見積・技術打合せ |
| 導入後 | 効果検証・リピート検討 | 成果報告・アップセル提案 |
ここで重要なのは、
**最初の接点(リード獲得)から契約までの「時間の長さ」**です。
この時間をどう設計し、どう関係を育てていくか——
それが、まさに「リードビジネス」の本質です。
リードビジネスを理解していないと起こる5つの弊害
では、この「リードビジネス」の構造を理解していないと、何が起こるのか。
典型的な5つの弊害を挙げます。
① 一発商談に賭けて、信頼を失う
「せっかく商談に来たんだから、今日決めてくれ」
「この価格は今だけですよ」
——そんな営業スタイルは、BtoCのセール型ビジネスでは機能しますが、
BtoBのリードビジネスでは逆効果です。
顧客は情報収集中の段階であり、まだ社内合意もとれていません。
そこに強引なクロージングを仕掛ければ、
「この会社は押しが強い」「情報提供目的で話しただけなのに」と
警戒されてしまいます。
結果として、
- 後のステップで再接触できない
- 口コミ・紹介の機会を失う
- 比較リストから外される
といった“静かな拒絶”が起こります。
② リードを育てる文化が根付かない
営業が「今月の数字」ばかり追うと、
ナーチャリング(育成)活動が軽視されます。
メルマガ、ウェビナー、技術資料、ブログコンテンツなど、
リードを温める仕組みが整っていないと、
結局は「獲得→放置→失注」のサイクルに陥ります。
結果、広告費や展示会出展などで得たリードのほとんどが
**“死んだリード”**になってしまう。
これは、実質的に「集客コストの無駄遣い」です。
③ セールスとマーケの分断が深まる
リードビジネスの理解がない企業では、
「マーケがリードを渡して終わり」「営業はとにかく受注」という分業が進み、
両者のKPIが完全にずれます。
マーケティングは「件数」を重視し、
営業は「質が悪い」と嘆く。
結果、互いに不信感が募る——という悪循環です。
本来、マーケと営業は同じレベニュープロセス上のチームであるはず。
しかしリード育成の概念がないと、
「リードは数」「商談は瞬発力」という短絡的な発想に陥り、
中長期的な売上創出の仕組みが作れません。
④ 短期施策ばかりに走る
「今月の受注が足りないからキャンペーンをやろう」
「セミナー開催で即商談につなげよう」
このように短期の成果を求めすぎるのも、リードビジネスを理解していない証拠です。
BtoBでは、1件の受注の裏に数カ月〜1年のリードタイムが存在します。
つまり、今の売上は過去の施策の成果です。
逆に言えば、今やっている施策は半年後の売上をつくるもの。
それを理解せず、
「効果が出ないからやめよう」と繰り返す企業ほど、
永遠に“短距離走”を続けることになります。
⑤ 営業プロセスのデータ化が進まない
リードビジネスでは、
接点〜商談〜受注の間にある定性的な接触履歴の蓄積が重要です。
しかし、「今すぐ売る」発想の営業組織では、
CRMやSFAへの記録が軽視されがちです。
- 展示会で何を話したか
- メールを開封したのは誰か
- どのコンテンツをダウンロードしたか
——これらの情報を蓄積・分析しなければ、
**次の一手(ナーチャリング施策)**が見えません。
つまり、リードビジネスを理解していないと、
データドリブンな営業組織への進化が止まるのです。
「売らずに売る」時代の営業に変える
リードビジネスの本質は、
**「すぐに売る」のではなく「売れる状態をつくる」**こと。
いまの営業に求められているのは、
相手の購買フェーズを見極め、
適切な情報を提供し、
必要なタイミングで商談を引き出す力です。
そのためには、次の3つが欠かせません。
1. フェーズを可視化する
「まだ比較段階なのか」「社内稟議中なのか」
——顧客がどのフェーズにいるのかを明確にし、
コミュニケーション内容を変えることが第一歩です。
営業管理表やCRM上で、
「認知」「興味」「比較」「稟議」「導入」といった
ステータスを設けるだけでも、
全体の動きが見えるようになります。
2. コンテンツで信頼を積み上げる
商談以外の接点で、
顧客の課題理解や自社の知見を示すコンテンツが必要です。
たとえば:
- 技術解説記事
- 比較表や導入事例
- 動画による機能デモ
- バーチャル展示会(Vizlaboのような形式)
こうしたコンテンツは、
「営業しなくても営業できる状態」をつくります。
リードビジネスでは、**“売る前に信頼される”**ことが何よりの武器です。
3. 商談後のフォローを仕組み化する
一度商談した相手がすぐに買わないのは当たり前。
だからこそ、商談後に自動でフォローが走る仕組みを作ることが重要です。
- 商談後3日でサンクスメール+技術資料送付
- 1週間後に関連ウェビナー案内
- 1ヶ月後に導入事例メール
このような「ナーチャリングシナリオ」を設計しておけば、
人力で追い続けなくても関係を維持できます。
リードビジネスを理解した企業だけが、継続的に伸びる
リードビジネスを理解すると、
営業・マーケティング・カスタマーサクセスの全てが一本の線でつながります。
- マーケはリードを獲得するだけでなく「育てる」
- 営業は「売る」よりも「買われるタイミングを見極める」
- CSは「満足」ではなく「次の購買につなげる」
このサイクルが回り出した企業は、
新規受注だけでなくリピート・紹介・アップセルまで一気通貫で伸びていきます。
まとめ:リードビジネスを“時間軸”でとらえる
リードビジネスを理解していないと、
- 早く売ろうとして嫌われる
- リードを育てずに終わる
- マーケと営業が分断する
- 短期施策に走る
- データ活用が進まない
といった弊害を生み出します。
しかし逆に、
「リードを長期的に育てるビジネス」だと理解すれば、
営業は“追いかける仕事”から“導く仕事”へ変わる。
その第一歩は、
「今月の数字」ではなく、半年後の成果を設計する視点を持つこと。
BtoBにおける“売上の源泉”は、今日の商談ではなく、
半年前に蒔いたリードなのです。





