
1課題1導線──SaaSマーケティングに学ぶ『多面的プロダクト設計』の考え方
多くの企業が「うちのサービスは〇〇の課題を解決します」と語ります。
確かに、製品やSaaSは何らかの課題を解決するために存在します。
しかし──本当に「ひとつの課題」しか解決していないでしょうか?
実際には、一つのプロダクトは複数の課題を同時に解決していることがほとんどです。
そしてその事実をマーケティングの設計に落とし込めている企業は、驚くほど少ない。
この記事では、SaaSの事例をもとに、
「1課題=1メッセージ=1導線」で構成する“多面的マーケティング設計”について解説します。
🧩 サービスは「多面的な問題解決装置」である
SaaSやWebサービスは、表面的には「ひとつの課題を解決するプロダクト」に見えます。
しかしその中身を分解すると、実はさまざまな課題を同時に解いています。
たとえば、MA(マーケティングオートメーション)ツールを例に考えてみましょう。
| 機能 | 解決する課題 |
|---|---|
| メルマガ配信 | 効率的な情報発信ができない |
| スコアリング | 有望リードを見極められない |
| 自動シナリオ | 営業フォローが属人化している |
| 行動トラッキング | 顧客の興味を把握できない |
つまり、1つのツールでも「課題の束」を解決しているのです。
🎯 「1課題=1メッセージ=1導線」で考える
この前提を踏まえると、マーケティング設計は次のように変わります。
1課題につき、1つのメッセージと導線を設ける。
つまり「プロダクトを1つの価値で語る」のではなく、
「複数の価値を、課題ごとに切り分けて伝える」ことが大切です。
✏️ たとえば、次のような構成
| 課題 | メッセージ | LPの方向性 |
|---|---|---|
| リードが取れない | 「展示会の代わりに“来場体験”をWebで」 | バーチャル展示の体験価値を訴求 |
| 商談率が上がらない | 「営業前に理解が深まるコンテンツ体験」 | 商談効率化のストーリーで構成 |
| 既存顧客が離れていく | 「既存リードの再活性化を“体験DX”で」 | CRM・リテンション施策との親和性を強調 |
このように課題別にメッセージを分けることで、
「誰に」「どんな文脈で」「なぜ刺さるのか」を明確にできます。
🧠 「メイン訴求を1つに絞る」ことの落とし穴
多くの企業がやってしまうのが、
**“メイン訴求をひとつに決めて”**しまうことです。
たとえば、SaaSツールを
「業務効率化ツール」として訴求しているケース。
確かに正しいのですが、それだけでは響かない層が必ずいます。
- 「チーム連携がうまくいかない」人には
→ コラボレーション強化の文脈が刺さる - 「人手不足に困っている」人には
→ 自動化・省人化のメッセージが刺さる - 「営業が属人的」な組織には
→ データ共有・再現性の価値が刺さる
つまり、**“同じプロダクトでも、課題の切り口で刺さり方が変わる”**のです。
広告やLPを一本化すると、結果的に「誰にも刺さらない」状態になりがちです。
🚀 広告とLPを「課題軸」で分ける
では、どうすれば「多面的な訴求」を実装できるのか。
答えはシンプルです。
広告とランディングページを「課題軸」で分ける。
たとえば、広告キャンペーンを次のように設計します。
| 課題軸 | 広告コピー例 | LPの内容例 |
|---|---|---|
| 展示会コスト削減 | 「出展1回分の費用で、常設展示をオンラインに」 | Vizlaboのバーチャル展示体験LP |
| 商談効率化 | 「営業が訪問前に“理解済み”になる仕組み」 | デジタルツイン×営業DX構成 |
| 既存顧客育成 | 「導入後のフォローも“体験DX”で」 | 顧客維持・アップセル訴求LP |
こうして複数の広告とLPを用意し、
ABテストを回すことで「どの課題が最も反応が良いか」が見えてきます。
📊 分析も「課題単位」で見る
課題別に広告・LPを分ける最大のメリットは、データが意味を持つことです。
もし1種類のLPしかなければ、
「誰に」「どんな理由で」刺さったのかは不明のままです。
しかし、課題別に分ければ:
- CTR(クリック率):どの課題に興味を持ったか
- CVR(コンバージョン率):どの導線で最も行動したか
- LTV(顧客生涯価値):どの課題解決が長期利用につながるか
といった指標が明確になります。
SaaSのような継続課金モデルでは、LTVを高める“導入動機”の分析が特に重要です。
たとえば「コスト削減」を重視した顧客より、「顧客体験向上」を目的に導入した顧客のほうが、継続率が高い──そんな傾向をデータで確認できます。
🔍 多面性を「可視化」するフレーム
ここで、プロダクトの多面性を可視化する簡易フレームを紹介します。
| 軸 | 質問例 | 出力される要素 |
|---|---|---|
| 課題軸 | ユーザーが直面する課題は何か? | 「展示会コスト」「営業効率」「既存顧客育成」など |
| ベネフィット軸 | 解決後の状態はどうなるか? | 「コスト半減」「商談率アップ」「リピート増加」 |
| ストーリー軸 | どんな文脈で語ると自然か? | 「DX」「体験設計」「関係強化」など |
| 訴求軸 | どんな言葉で表現するか? | 「来場体験をWebで」「営業体験のDX」など |
これを整理すれば、
プロダクトの価値を「複数のストーリーライン」で展開できるようになります。
💬 実務にどう活かすか
実際のマーケティング設計に落とし込む際は、次の3ステップを意識すると良いです。
-
課題群の洗い出し
- 顧客ヒアリング・商談メモから「よく出る悩み」を抽出する
- 「機能」ではなく「解決される不便さ」で分類する
-
課題ごとのメッセージ化
- 各課題に対して「共感→解決→結果」がスムーズにつながるコピーを書く
- 言葉を変えるだけでクリック率が倍になるケースもある
-
課題別の導線設計
- 広告・LP・CTA・フォーム・営業資料の内容を合わせる
- コンバージョン後のメールも課題別シナリオで分岐させる
これを運用しながら、データを見て磨き上げていく。
まさに「課題単位のPDCA」を回すイメージです。
🌏 プロダクトの可能性を最大化する
結局のところ、製品の可能性を狭めているのは“発信の側”です。
どんなに優れたサービスでも、「1つの文脈」でしか語られなければ、伝わる価値も1つに留まります。
逆に、課題軸での発信を広げれば、
- まだ気づいていないニーズ層に届く
- 新しい導入理由を発見できる
- 既存顧客の使い方が広がる
といった“副次的な市場”まで取り込むことができます。
🧭 おわりに:メッセージを「分ける勇気」を持とう
マーケティングの世界では、
「伝えるメッセージはひとつに絞れ」とよく言われます。
しかし、それは1回の広告内で混在させるなという意味であって、
プロダクト全体の訴求軸を1つに制限せよという意味ではありません。
むしろ、
「1課題1導線で構築し、どの導線が最も価値を生むかを検証する」
このアプローチこそが、プロダクトの可能性を最大化します。
SaaSも、展示会も、製造業のDXも。
どれも最終的には「課題解決の体系」をいかに設計するかの勝負です。
あなたのプロダクトが解決できる課題は、きっとひとつじゃない。
だからこそ──メッセージもひとつじゃなくていい。




