
営業体験の設計──「来る価値」と「見つけてもらう価値」のちょうどいい案配
🧭 はじめに:営業体験とは「体験設計」の一部である
製造業BtoBの営業現場では、長らく「訪問」「展示」「提案」という3つの行動が基本でした。
その中で、「営業体験」という言葉が最近注目されています。
営業体験とは──
営業と顧客の接点そのものを、顧客にとって“来る価値がある体験”にすること
しかしここで難しいのは、**「体験を重視しすぎると、そもそも見つけてもらえない」**という逆説。
この記事では、
「営業体験にどこまで独自性を持たせるべきか」
「事前情報とのバランスをどう設計すべきか」
を、製造業BtoBの視点から具体的に整理していきます。
📦 カタログ体験 vs 営業体験
まず整理したいのが、「カタログ体験」と「営業体験」の違いです。
| 項目 | カタログ体験 | 営業体験 |
|---|---|---|
| 目的 | 製品情報の提供 | 価値の発見と共創 |
| 内容 | スペック・価格・導入事例 | 課題ヒアリング・実演・比較検討 |
| 役割 | 認知・比較段階 | 意思決定支援・関係構築 |
| 成功指標 | ページ閲覧数・資料DL数 | 商談化率・受注率・継続率 |
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つまり「カタログ体験」は情報の整理であり、
「営業体験」は感情の動機づけです。
問題は、ここを混同してしまう企業が非常に多いという点です。
⚠️ よくある失敗①:営業体験が“情報の延長”になっている
展示会や営業訪問で、顧客が体験する内容が「カタログと同じ」ことは珍しくありません。
- 展示ブースで、製品スペックをそのまま並べて説明
- 営業訪問で、会社概要と事例をパワポで紹介
- 動画を見せても「Webでも見れますよね」と言われてしまう
これでは、“来る意味”がない。
顧客にとって、わざわざ足を運ぶ理由がなくなります。
⚠️ よくある失敗②:逆に「営業体験偏重」で発見されない
一方で、「営業体験を重視しすぎる」企業にも落とし穴があります。
- 営業訪問でしか情報を出さない
- 製品の詳細をWeb上で非公開にしている
- 問い合わせをしないと資料が見れない
この場合、
“事前の情報収集”段階で候補に上がらなくなるのです。
いまやBtoB購買の7割以上は「営業に会う前に意思決定が進む」と言われます。
つまり、営業体験以前に“検索体験”で選ばれていないのです。
🔍 二律背反ではなく、接続設計が重要
「カタログ体験」と「営業体験」は対立構造ではなく、
連続的に設計すべき体験の流れです。
- カタログ体験:見つけてもらうための「入口」
- 営業体験:惹きつけるための「接続」
- 導入・活用体験:成果で繋がる「継続」
営業体験を設計するときのキーワードは、“入口と接続の間”。
この間にギャップがあると、せっかくの営業力が活かせません。
🎯 ステップ①:「来る理由」を明確にする
顧客は時間を割いて営業と会うとき、
「Webでは得られないもの」を期待しています。
その「来る理由」は3つのパターンに整理できます。
| 来る理由のタイプ | 顧客心理 | 営業が提供すべき体験 |
|---|---|---|
| 確認型 | 情報を裏付けたい | 実機・実演・具体事例 |
| 発見型 | 新しい発想を得たい | 応用例・設計提案 |
| 共創型 | 一緒に考えたい | ワークショップ・構想検討 |
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営業体験を「発見型」や「共創型」に設計できれば、
顧客は“情報収集の延長”ではなく“時間を投資する価値”を感じます。
🧩 ステップ②:「来る前の体験」で引っかかる仕組みを作る
営業体験を成立させるには、
事前のカタログ体験(Web体験)で見つけてもらうことが前提です。
この段階では「独自性」よりも「わかりやすさ」が重要。
Web上で引っかかる情報の条件
- 検索意図と一致している(例:用途別ページ)
- スペック・価格・事例が最低限そろっている
- 課題から逆算された導入事例がある
つまり、カタログ的な整理をしっかり整えたうえで、
「もっと深く知りたい」と思わせる“次の一手”を設計する。
たとえば、
- 「現場で体験できる実演デモを予約」
- 「技術相談に進むCTA(行動導線)」
- 「Web展示会」や「3Dモデルでの動作確認」
など、Webと営業の“橋渡し”がポイントになります。
⚙️ ステップ③:営業体験の価値設計をデザインする
では、実際に「営業体験」をどう作るか。
製造業BtoBでは、以下の3段階で考えると整理しやすいです。
① 見せる体験(Visual)
→ 製品を「実感」させる
→ 動作・構造・使い勝手を五感で伝える
② 語る体験(Verbal)
→ 開発背景・思想・導入効果を「物語」として共有
→ 営業が“製品の翻訳者”になる
③ 共に考える体験(Collaborative)
→ 顧客の課題に合わせたカスタマイズをその場で議論
→ 「この人となら作れる」と思わせる共創感を生む
この3層を重ねることで、
単なる説明から一歩進んだ「価値体験」へと進化します。
🧠 ステップ④:「差を出す」のではなく「差を感じさせる」
営業体験の設計で誤解されがちなのが、
“差別化”を「独自な演出」や「派手な仕掛け」と捉えること。
実際には、顧客が感じる差はもっと地味です。
たとえば──
- 自社の図面をその場で3D化して見せてもらえた
- 営業が現場課題を即座に言語化してくれた
- 競合製品との違いを「顧客視点」で整理してくれた
こうした「納得の瞬間」こそが、
営業体験の本質的な差別化になります。
📈 ステップ⑤:体験を再現可能にする
属人的な営業体験は、再現性が低くスケールしません。
そのため、**“体験の構造化”**が必要です。
営業体験の構造化の例
| フェーズ | 目的 | 仕掛け |
|---|---|---|
| 導入 | 関心喚起 | 導入ストーリー・課題共感 |
| 展開 | 理解促進 | 実演・比較・可視化 |
| 結論 | 意思決定支援 | ROI提示・導入後支援提案 |
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このように営業体験を「再現可能なプロセス」として整理すれば、
営業の属人性を減らしつつ、質を平均化できます。
🧩 ステップ⑥:体験を“マーケティングの資産”に変える
営業現場で得たリアルなやり取りは、マーケティングの宝庫です。
- 顧客がよく聞く質問 → FAQ化してWebへ
- よく使う図やデモ → 展示会・動画に転用
- 営業が語るストーリー → ホワイトペーパーに展開
こうして「営業体験の要素」をマーケティング資産に還元することで、
カタログ体験と営業体験が循環します。
最終的に「営業がいなくても、営業的な体験ができるWeb」へと進化していくのです。
🚀 まとめ:「体験の一貫性」が、信頼をつくる
- カタログ体験は“入口”
- 営業体験は“接続”
- 活用体験は“継続”
この3つをつなぐ「一貫した体験設計」こそが、
これからのBtoB営業に求められる姿です。
💬 最後に
営業とは、単なる“説明の場”ではなく、
顧客と価値を共創する場です。
カタログで興味を持たせ、
営業で「自分ごと化」させ、
導入後に「信頼化」させる──
その連続体の中で、「営業体験」はもっとも人間らしい接点です。
そして、その質こそがブランドの記憶として残ります。





