
カテゴリーエントリーポイント ── ニッチ製品を見つけてもらうための入り口設計
マーケティングの世界では、「製品単体」ではなく「カテゴリー」で戦うことが重要だと言われます。
つまりユーザーは製品名ではなく、「〇〇というジャンルの中で何が良いか」という目線で比較検討を行うということです。
たとえば「MAM(Mobile Application Management)」という分野を例にしてみましょう。
MAMは企業が社員に配布したスマートフォンやタブレットのアプリ利用を制御する仕組みです。
しかし、この「MAM」という言葉を知っている人は、まだ一部のIT担当者に限られています。
検索ボリュームも多くありません。
もしこのカテゴリだけを起点に集客しようとすると、どうしても母数が小さく、リード獲得が難しいのです。
では、どうすればいいのでしょうか。
ここで重要になるのが 「カテゴリーエントリーポイント」 という考え方です。
1. カテゴリーエントリーポイントとは
カテゴリーエントリーポイントとは、ユーザーが「あなたの製品ジャンル」に到達する前に、
興味や課題を感じて検索・情報収集をしている関連トピックのことです。
つまり、上位カテゴリや隣接カテゴリを経由して認知される入口 です。
MAMの例でいえば、以下のようなキーワードや文脈が該当します。
- 「リモートワーク中のセキュリティ対策」
- 「社員のスマホ管理」
- 「業務アプリのアクセス制御」
- 「BYOD(私物端末利用)のリスク」
これらのトピックで情報を探している人たちは、
最初から「MAM」という言葉を知らなくても、潜在的にニーズを持っています。
つまり、MAMというニッチカテゴリに直接流入しなくても、
隣接テーマ経由でリーチできる導線を設計する ことが大切なのです。
2. なぜニッチカテゴリほど「入口設計」が重要なのか
製造業やBtoBの世界では、
「自社の技術や製品はすでに確立しているが、市場としてはまだ小さい」
というケースが多くあります。
例えば:
- IoT機器の通信規格の中でも特定業界向けに特化したモジュール
- 高速画像処理に特化した産業用カメラ
- 独自のアルゴリズムを持つ設備異常検知AI
いずれも優れた技術ですが、「カテゴリ名」を検索する人自体が少ない。
そのため、展示会や紹介頼みの営業活動になりがちです。
しかし、こうしたニッチカテゴリほど、
「関連領域からの流入経路」を複数持っておくこと が
オンライン集客の鍵になります。
たとえば、
- 「設備保全」や「予知保全」からAI異常検知へ
- 「遠隔監視」からIoT通信モジュールへ
- 「生産性改善」から画像解析装置へ
といった“入口”を作ることができます。
3. カテゴリの「地図」を描く
カテゴリーエントリーポイントを見つける第一歩は、
自社のカテゴリを中心に 「周辺カテゴリの地図」 を描くことです。
- 上位カテゴリ(より広い概念)
- 例:MAM → 情報セキュリティ、リモートワーク、IT資産管理
- 隣接カテゴリ(目的が近い別ジャンル)
- 例:MAM → MDM(端末管理)、VPN、ゼロトラスト
- 下位カテゴリ(具体的な課題・導入シーン)
- 例:MAM → 社員スマホの業務アプリ制御、外部アプリの遮断設定
このようにカテゴリーを構造化しておくと、
どの層でコンテンツを作るとどんな人が来るか、が明確になります。
上位カテゴリの記事 は検索ボリュームが多く、潜在層へのリーチに効果的。
隣接カテゴリの記事 は比較検討段階のユーザーを取り込めます。
下位カテゴリの記事 は導入検討中の人に直接刺さります。
4. コンテンツ企画の実践例
では、実際にどうやって記事やホワイトペーパーを企画すればいいのでしょうか。
MAMのケースをベースに、具体例を示します。
| カテゴリ層 | 記事タイトル例 | 狙う読者層 |
|---|---|---|
| 上位カテゴリ | リモートワーク時代のセキュリティ課題10選 | リモート勤務を導入している人事・総務部門 |
| 隣接カテゴリ | MDMだけでは守れない?アプリ管理の新しい考え方 | IT担当・情報システム部門 |
| 下位カテゴリ | MAM導入で業務アプリの情報漏洩を防ぐ方法 | 製品比較段階の意思決定者 |
* Tailwindのプリフライト有効時を想定
このように層を分けて設計することで、
「カテゴリーを知らない人」から「導入検討者」までを一連の導線で育成できます。
これが、BtoBにおけるコンテンツマーケティングの中核構造 です。
5. どのカテゴリから入っても最終的に「自社カテゴリ」にたどり着く導線設計
カテゴリーエントリーポイントを設けるだけでは不十分です。
重要なのは、「どこから来ても自社のカテゴリに誘導できる」導線を設計すること。
そのためには以下の要素が必要です。
- 内部リンク設計:
隣接テーマの記事から自社カテゴリ(MAM)の説明ページへ自然に誘導。 - ホワイトペーパー構成:
広い課題を提示しつつ、最後に自社カテゴリの解決策へ。 - CTAの整合性:
「課題を解決する資料はこちら」など、ステップを意識した訴求。 - タグ・カテゴリ構造の整理:
CMS上で「上位カテゴリ→下位カテゴリ」のツリーを明確化。
この構造を整えることで、
「上位概念から入っても、最終的には自社の強みの領域に導かれる」
というマーケティングファネルを作ることができます。
6. カテゴリーエントリーポイントの設計は「市場拡張戦略」
カテゴリーエントリーポイントの設計は、
単なるSEO対策やコンテンツ企画ではありません。
それは 「市場拡張戦略」 です。
マーケティング心理学者バイロン・シャープが提唱した
「Mental Availability(心的可用性)」の概念にも通じます。
つまり、「購入シーンで思い出される確率を高める」 こと。
ニッチ製品の場合、ユーザーはそもそもその製品カテゴリを「思い出せない」ことが多い。
だからこそ、より広いカテゴリの文脈で接点を増やし、
「そういえばこの課題にはあの会社のソリューションがあったな」と
想起される確率を上げていく必要があります。
7. 製造業BtoBへの応用
この考え方は製造業のBtoBマーケティングでも極めて有効です。
たとえば:
- 「3Dビジョン検査装置」 → 「外観検査」→「品質管理」→「生産性改善」
- 「産業用VRトレーニング」 → 「技能伝承」→「人材育成」→「安全教育」
- 「デジタルツイン」 → 「設備保全」→「DX推進」→「経営改革」
こうした“上位概念”や“隣接課題”を経由することで、
市場認知を飛躍的に広げることができます。
つまり、
「製品を売る」前に、「カテゴリを育てる」 ことが、
BtoBの新しいマーケティングの起点になるのです。
8. まとめ:カテゴリを「点」ではなく「面」で捉える
ニッチカテゴリで戦う企業が勝つためには、
「自社製品の説明」ではなく「カテゴリそのものを広げる」視点が不可欠です。
- 自社のカテゴリを中心に、上位・隣接カテゴリをマップ化する
- それぞれの入口からコンテンツを用意する
- 導線設計で自社カテゴリに自然に誘導する
- 「カテゴリを広げる=市場を広げる」という発想を持つ
この戦略を実践すれば、
あなたの製品がまだ知られていない領域にあっても、
潜在的な顧客との接点を増やし、確実に市場を育てていくことができます。





