
想起集合と第一想起 ― 選ばれるブランドになるための基礎知識
「あなたの業界で一番に思い浮かぶブランドはどこですか?」
このシンプルな問いにどう答えられるかは、企業にとって大きな意味を持ちます。
マーケティングの世界では「認知度」や「知名度」という言葉がよく使われますが、実際に購買や取引に直結するのは単なる名前の認知ではありません。
重要なのは、**「選択の場面で頭に浮かぶかどうか」**です。
ここで出てくる二つの概念が「想起集合」と「第一想起」です。
本記事では、これら二つの違いを整理し、どのようにマーケティング施策へ落とし込めるかを解説していきます。
想起集合とは?
**想起集合(Evoked Set)**とは、あるカテゴリーにおいて、消費者の頭の中で「選択肢として思い出せるブランドの集合」を意味します。
例えば、「コンビニといえば?」と聞かれたときに頭に浮かぶのが「セブンイレブン」「ファミリーマート」「ローソン」だとすると、これがその人の想起集合です。
想起集合のポイント
- 「土俵に上がれているか」を示す
- 必ずしも一番でなくてもよい
- 業界規模や露出度によって大きく変わる
👉 想起集合に入るということは、購買や契約の検討プロセスにおいて「比較対象にされる」ことを意味します。
逆に言えば、ここに入っていなければそもそも選ばれる可能性がゼロなのです。
第一想起とは?
**第一想起(Top-of-Mind Awareness, TOMA)**とは、想起集合の中でも「最初に思い浮かぶブランド」を指します。
たとえば「スマートフォンといえば?」と聞かれて、真っ先に「iPhone」と答える人が多ければ、Appleはこのカテゴリーで第一想起を獲得していることになります。
第一想起のポイント
- 「そのカテゴリーを代表する存在」
- 想起集合の中で最も強いポジション
- 営業効率や市場シェアに直結
第一想起を取るブランドは、往々にしてカテゴリーの代名詞となり、広告宣伝や営業活動においても有利な立場を築けます。
想起集合と第一想起の違いを整理する
両者の関係を図で表すと分かりやすいでしょう。
カテゴリー:清涼飲料水
想起集合:コカ・コーラ、ペプシ、ファンタ、三ツ矢サイダー
第一想起:コカ・コーラ
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👉 想起集合は「複数ブランドを含むグループ」、第一想起は「その中で一番上にあるブランド」という位置づけです。
言い換えれば:
- 想起集合 = 幅
- 第一想起 = 深さ
なぜこの違いが重要なのか?
単なる「知っている」では不十分だからです。
- 想起集合に入っていない → 検討すらされない
- 想起集合には入っているが第一想起でない → 競合との比較に持ち込まれる
- 第一想起になっている → 指名買いされる確率が高い
マーケティング戦略を立てるうえで、この階層を意識することは「どの施策を優先すべきか」を決める基準になります。
事例1:BtoC市場(飲料)
- 想起集合:コーラと言えば「コカ・コーラ」「ペプシ」
- 第一想起:多くの人にとって「コカ・コーラ」
コカ・コーラは長年の広告投資とグローバルキャンペーンにより、第一想起を独占するポジションを築きました。
結果、スーパーや自販機での購入時に「とりあえずコーラならコカ・コーラ」という指名買いが起こるのです。
事例2:BtoB市場(クラウドサービス)
- 想起集合:クラウドと言えば「AWS」「Azure」「Google Cloud」
- 第一想起:多くの技術者や経営者にとって「AWS」
クラウド導入を検討する企業は複数社を比較しますが、AWSは第一想起を取っているため、提案機会や指名検索で大きく有利な立場を持っています。
施策としての使い分け
1. 想起集合に入るための施策
- 大規模な露出(展示会、広告、SEO)
- カテゴリー連想を強化するコンテンツ(例:「バーチャル展示会ならVizlabo」)
- まずは「その市場に存在する」ことを知らしめる
2. 第一想起を取るための施策
- 差別化された強いメッセージ
- 継続的な露出で「刷り込み」
- 口コミや事例を活用した信頼性強化
👉 スタートアップや新規事業は、まず「想起集合入り」を目指し、その後に「第一想起」を狙うのが現実的なステップです。
測定方法
想起集合の測り方
- アンケートで「このカテゴリーで知っているブランドを挙げてください」と聞く
- 複数回答可
- 出てきた名前の数が多ければ多いほど「想起集合入り」していると判断できる
第一想起の測り方
- 「そのカテゴリーで最初に思い浮かぶブランドはどこですか?」と聞く
- 単一回答
- 回答比率が高ければ高いほど第一想起の強さがわかる
実務での応用
- 市場シェア分析
- 数字だけでなく「頭の中のシェア」を把握する
- 営業戦略
- 想起集合に入っているかどうかで、商談の難易度が変わる
- 広告の効果測定
- 認知度調査とあわせて第一想起率を追うことで、ブランド投資の成果を確認できる
BtoBでも有効か?
BtoCほど消費者の感情に左右されないと思われがちですが、実はBtoBでも同じことが起こります。
例えば「展示会運営会社といえば?」と聞かれて、特定の大手イベント会社がすぐ出てくるのは、まさに第一想起が働いている例です。
一方で、新規プレイヤーが想起集合にすら入っていなければ、比較対象にすらなれません。
まとめ
- 想起集合=「選択肢の土俵に上がる」
- 第一想起=「その中で最初に思い浮かぶ存在」
- 想起集合は認知の幅、第一想起は認知の深さを示す
- スタートアップや新規事業は「まず集合に入る」、その後「第一想起を狙う」というステップが現実的
- BtoBでもBtoCでも応用可能で、営業効率・広告効果・市場シェア分析に直結する
企業にとっての本当のゴールは、単なる「知名度」ではなく、**「買うときに思い出してもらえる存在」**になることです。
そのために「想起集合」と「第一想起」という視点は、あらゆるマーケティング施策の基盤として活用できます。





