
単純接触効果はメルマガでも得られるのか? ― 製造業BtoB営業とマーケティングにおける接触戦略の再考
単純接触効果(ザイアンス効果)とは、人は繰り返し接触する対象に対して好意や信頼感を抱きやすくなる心理現象を指す。
営業が定期的に顧客を訪問するのは、案件探索や情報交換のためだけではない。顔を合わせることで関係性を維持・深化させ、競合に奪われない関係を作るためでもある。
しかし、対面営業は移動時間や訪問可能範囲といった制約が大きい。
では、この「単純接触効果」を、メルマガやホワイトペーパー、ウェビナーといったデジタル接触(いわゆるテックタッチ)で代替することは可能なのだろうか?
第1章:営業訪問における単純接触効果の実際
1.1 定期訪問の意図
営業が月1回、四半期に1回といった頻度で顧客を訪れるのは、必ずしも直近の案件があるからではない。むしろ「忘れられないため」に訪問する意味が大きい。顧客にとっても「よく来てくれる会社」という印象は、いざ案件が発生したときの選定理由につながりやすい。
1.2 単純接触効果の働き方
顧客が営業担当者に直接接することで、以下の効果が生まれる。
- 安心感の形成:人となりが伝わる
- 信頼関係の強化:困ったときに声をかけやすい心理的距離の縮小
- 競合との差別化:価格や機能以外の要素で「選ばれる理由」になる
このように、定期訪問は単純接触効果そのものを狙った行動でもある。
第2章:デジタル接触で代替できるのか?
2.1 メルマガにおける単純接触効果
メルマガは低コストで高頻度の接触を可能にする。開封されるかどうかは別として、タイトルが顧客の目に触れるだけでも接触効果は一定程度発生する。ただし、対面のように「人格」や「関係性の温度感」を伝える力は弱い。
2.2 ホワイトペーパーや技術資料
ホワイトペーパーは深い情報接触を提供する手段だ。読み手が主体的にダウンロードして読むため、単純接触効果というよりは「知識を通じた信頼構築」に近い。接触回数よりも「質」で勝負する施策である。
2.3 ウェビナー
ウェビナーは「顔が見える」要素を部分的に取り戻せる。質問応答などのインタラクションを通じて、対面に近い接触効果を得られる可能性がある。これにより、単純接触効果に加えて「専門家としての信頼感」も付与できる。
第3章:テックタッチと単純接触効果の比較
3.1 接触の「質」と「量」の違い
- 対面訪問:量は限られるが、1回の接触の質が高い
- メルマガ:質は低いが、量(頻度・範囲)を稼げる
- ウェビナー:質と量の中間。双方向性を加味できる
単純接触効果そのものはデジタル接触でも得られるが、「人間的な信頼形成」という点では対面に及ばない。
3.2 SaaS企業がテックタッチを重視する理由
SaaS企業は多数の顧客を相手にするため、訪問では非効率になる。そこで、メルマガ、ホワイトペーパー、ウェビナーを組み合わせ、**接触回数をテクノロジーで増やす戦略(テックタッチ)**を採用している。製造業BtoBも同様に、限られた営業リソースを補完する意味で取り入れる価値がある。
第4章:製造業BtoBにおける最適な活用方法
4.1 メルマガの役割
- 忘れられない存在になる:タイトルや送信者名だけでも刷り込み効果
- 情報提供のハブになる:新技術、展示会情報、活用事例などを定期的に発信
- 営業訪問の前振り:訪問前に送信することで接触回数を増やす
4.2 ウェビナーの役割
- 新規リード獲得:申込・参加を通じて潜在層を顕在化
- 既存顧客との接点強化:ユーザー向けセミナーで活用促進
- 対面訪問の代替:遠方顧客や移動コストの高い地域に適用可能
4.3 ホワイトペーパーの役割
- 比較検討段階での武器:他社との違いを論理的に説明
- 知識資産としてのストック:時間をかけて何度も使える
第5章:単純接触効果を最大化する工夫
5.1 パーソナライズ
ただ送るだけのメルマガでは効果が薄い。顧客属性や関心に応じてパーソナライズすれば、「自分向け」と感じさせることができる。
5.2 マルチチャネルでの連動
メルマガ、ウェビナー、ホワイトペーパーを単独で使うのではなく、顧客ジャーニーに沿って連動させることが大切だ。例えば:
- メルマガでウェビナー告知
- ウェビナー後にホワイトペーパー送付
- ダウンロードした顧客に営業がフォロー
これにより、接触回数を積み上げつつ、単純接触効果と論理的信頼構築を掛け合わせることができる。
5.3 3Dコンテンツの追加
製造業ならではの強みは、製品を「見せる」ことである。3Dモデルやバーチャル展示会は、メルマガやウェビナーの内容を一気に強化する。顧客は視覚的に製品を理解しやすくなり、記憶にも残りやすい。これもまた単純接触効果を加速させる要素となる。
第6章:営業とデジタルの最適な役割分担
6.1 営業が担うべき部分
- 顧客の深い課題理解
- 信頼関係の構築
- 意思決定プロセスへの働きかけ
6.2 デジタルが担うべき部分
- 頻度を稼ぐ(接触回数の増加)
- ナレッジ提供(資料、セミナー、動画)
- スコアリング(関心度を可視化)
営業とデジタルを組み合わせることで、単純接触効果を最大化できる。
結論:単純接触効果はメルマガでも可能、だが限界もある
結論として、単純接触効果はメルマガでも発揮される。顧客の目に触れる回数を増やすことで「親近感」「信頼感」を生み出せる。ただし、対面ほどの強度はない。だからこそ、メルマガやウェビナーで頻度を担保し、営業訪問で深度を担保するハイブリッド戦略が最適解となる。
製造業BtoBにおいては、デジタル接触が営業リソースの限界を補い、営業接触がデジタルの弱点を補う。両者を組み合わせたとき、単純接触効果は最大化され、受注継続につながるのである。





