
知っておきたいマーケティング用語:ドッグフーディング(自社利用)とは?
マーケティングやプロダクト開発の現場でしばしば登場する用語に「ドッグフーディング(Dogfooding)」があります。
直訳すると「犬のエサを食べる」という奇妙な表現ですが、意味はシンプルで 「自社製品を自社で利用すること」 を指します。
ソフトウェア業界でよく使われる概念ですが、BtoBや製造業においても重要なヒントを与えてくれる考え方です。
この記事では、ドッグフーディングの定義、メリット・デメリット、さらに製造業BtoBにおける適用可能性について詳しく解説します。
ドッグフーディングの由来と定義
「ドッグフーディング」という言葉は、1970年代にアメリカのドッグフード会社の広告コピーに由来すると言われています。
「自分たちが作ったドッグフードを自ら食べているから、品質に自信がある」というニュアンスです。
この表現がソフトウェア業界に転用され、**「自社で開発した製品をまず自社で使い、品質や使い勝手を検証すること」**を意味するようになりました。
たとえばMicrosoftやGoogleは新しいサービスをリリースする前に、自社の社員に社内利用をさせて問題点を洗い出すプロセスを設けています。
この取り組みは「社内ベータテスト」や「EAT(Employee Acceptance Test)」とも呼ばれますが、業界全体では「ドッグフーディング」という言葉が浸透しています。
ドッグフーディングのメリット
ドッグフーディングには大きく分けて次のようなメリットがあります。
1. プロダクトの品質向上
実際に社員が使うことで、細かな不具合や改善点がすぐに見つかります。
机上の仕様書やテスト環境では見逃されるバグやユーザビリティの課題も、日常利用を通じて発見できます。
2. ユーザー視点での体験把握
社員も「ユーザーの一人」として製品を利用することで、顧客がどのような使い心地を得るのか、どの点で不便を感じるのかを直感的に理解できます。
開発者と利用者の距離を縮める役割を果たします。
3. 社員の理解促進
自社製品を社員自身が使っていれば、自然と製品への理解が深まり、営業・サポート・マーケティング活動でも説得力が増します。
社員が「使っているからこそ語れる体験」を持てるのは大きな強みです。
4. 製品への誇りとエンゲージメント向上
「自分たちが作ったものを自分たちで使っている」という事実は、社員の誇りを刺激します。
また、課題が見えたときにも「自分が困っているから直そう」という動機づけが働きやすくなります。
5. 外部への信頼感醸成
「私たち自身が日々この製品を使っています」というメッセージは、顧客に安心感を与えます。
単なるセールストークではなく、実証的な証拠になるからです。
ドッグフーディングのデメリット
一方で、ドッグフーディングには注意点やデメリットも存在します。
1. 社員の利用環境が顧客と異なる
社員が使う環境は往々にして理想的で、顧客が置かれている現実的な環境とは違うことがあります。
結果として「社内ではうまく動くけど、顧客環境では不具合が出る」というギャップが生じやすいです。
2. 利用者の偏り
社員は製品に詳しいため、一般の顧客より習熟度が高い状態で利用します。
そのため「初心者がつまずくポイント」を見落とすリスクがあります。
3. 内部目線に偏る
自社で使うことに満足してしまい、外部顧客の本質的な課題や使い方の多様性を見逃す危険性があります。
「自分たちが使えているから大丈夫」という誤解につながりやすいです。
4. 社員への負担増
半ば強制的に「自社製品を使え」となると、社員の業務効率を下げることがあります。
特にまだ完成度の低い段階で無理に使わせると、かえって不満を招くことになりかねません。
5. 本来の顧客セグメントとずれる
BtoB製品では、顧客が大企業・特定業界など特殊な条件を持つことがあります。
その場合、社員利用だけでは顧客ニーズを完全に再現できない可能性があります。
製造業BtoBにおけるドッグフーディングの可能性
ソフトウェア業界では一般的なドッグフーディングですが、製造業BtoBの現場ではどうでしょうか。
結論から言えば、「同じ発想を応用することは可能だが、方法は工夫が必要」です。
1. 工場設備やツールの社内利用
製造業では、自社開発した工作機械やツールを自社工場で実際に使ってみることが考えられます。
その結果、メンテナンスのしやすさや作業効率といった観点で改善点が見えてきます。
2. 社員をテストユーザーにする
製品が製造現場向けのソフトウェアやIoTシステムであれば、まず自社の工場や関連部門で導入することで、改善サイクルを回せます。
3. サプライチェーンでの実証
製造業BtoBでは、自社製品を関連会社やグループ企業で先行利用することも有効です。
身近な顧客環境に近い形で検証でき、外部の声も取り入れやすくなります。
4. 限界もある
ただし、工作機械や大型設備など「高額」「長納期」「大規模インフラ依存」の製品では、社内利用が現実的でないケースもあります。
その場合は 「社内での小規模テスト環境」や「模擬実証実験」 という形で取り入れるしかありません。
ドッグフーディングを製造業BtoBで活かすポイント
製造業BtoBに応用する際のポイントは以下です。
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テスト環境を意図的に作る
→ 実際の顧客環境を模したテストラインを構築し、社員が日常的に利用する。 -
社員だけでなく外部の協力企業も巻き込む
→ グループ会社や協力会社を巻き込み、実利用に近い環境で検証する。 -
利用状況をデータ化する
→ 社内利用を通じて得られたデータを体系的に収集・分析し、製品改善に活かす。 -
ユーザー体験を定量化する
→ 「使いやすさ」「効率性」「不具合率」などを数値化し、顧客に提示できる形にする。 -
営業・マーケティングでの活用
→ 「我々自身の工場で実際にこの製品を使っています」という証言は、営業資料として強力な説得力を持ちます。
まとめ:ドッグフーディングは「信頼を生む証拠」
ドッグフーディングは、単に社内でテストするだけでなく、「自分たちが自分たちの製品を信頼して使っている」という証明」 です。
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メリット
・品質改善
・顧客視点の理解
・社員理解・誇り
・営業での説得力 -
デメリット
・環境の差異
・利用者の偏り
・内部目線の強まり
・社員負担
製造業BtoBではソフトウェア業界のようにシンプルにはいきませんが、発想を応用することで多くの学びが得られます。
「自分たちが使いたいと思える製品か?」 という問いは、どんな業界でも普遍的です。
最終的に、ドッグフーディングは「顧客に対して胸を張って提案できるかどうか」を測るリトマス試験紙のような存在だと言えるでしょう。





