BtoCとBtoBにおけるインサイトの違いと、BtoB特有のインサイトの特徴

BtoCとBtoBにおけるインサイトの違いと、BtoB特有のインサイトの特徴

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マーケティングの現場でよく使われる「インサイト」という言葉が使われます。
直訳すれば「洞察」ですが、実際の意味は「顧客が自覚していない本当の欲求・動機・心理的な真実」を指します。

ただし、この「インサイト」という概念は、BtoC(消費者向け)とBtoB(法人向け)では微妙にニュアンスが異なります。
本記事では両者の違いを整理し、特にBtoBにおけるインサイトの特徴を深く掘り下げていきます。


BtoCにおけるインサイト

BtoCのインサイトは、基本的に「個人の感情」に根ざしています。
購買行動の多くは、合理性よりも感情に左右されやすいからです。

典型的な例

  • 表面的ニーズ:「コーヒーを飲みたい」

  • インサイト:「落ち着ける居場所が欲しい(家でも職場でもないサードプレイス)」

  • 表面的ニーズ:「掃除機が欲しい」

  • インサイト:「掃除のストレスから解放されたい」

特徴

  1. 感情が中心

    • 安心したい、楽をしたい、人からよく見られたい。
    • 非合理的でも、感情に響くと購買が決まる。
  2. 購買決定者と利用者が同じ

    • 自分のために、自分で決めて購入する。
  3. リスクが小さい

    • 失敗しても損失は個人レベルで済む。

つまり、BtoCのインサイトは「人間らしい感情のツボ」をどう突くかにかかっています。


BtoBにおけるインサイト

一方で、BtoBの購買はまったく違う構造を持っています。
インサイトもBtoCと同じく「隠れた本音」を意味しますが、以下のような特徴があります。

特徴1:組織の事情が絡む

BtoCでは個人の感情が直接購買を決めますが、BtoBは違います。購買は「個人」ではなく「組織」が行います。
そのため、担当者の意思決定は常に 社内の力学・上司の承認・部門間調整 とセットで考えられます。

  • 表面的ニーズ:「新しいシステムを導入したい」
  • インサイト:「他部門に後れを取っていると思われたくない」

特徴2:リスク回避心理が強い

BtoBの購買は金額も規模も大きく、失敗すると会社だけでなく担当者個人のキャリアや評価にも影響します。
そのため、合理性以上に「安心材料」が意思決定に影響を与えます。

  • 表面的ニーズ:「もっと安いサービスを探したい」
  • インサイト:「もし高いものを選んで失敗したら責任を問われる」

特徴3:導入後のストーリーが重視される

BtoCでは「購入する瞬間の感情」が大きいですが、BtoBでは「導入後にきちんと運用できるか」が極めて重要です。
担当者は「社内に導入を正当化できるか」「現場が使いこなせるか」を強く気にしています。

  • 表面的ニーズ:「コスト削減したい」
  • インサイト:「運用を属人化させず、監査対応でも安心できる体制がほしい」

特徴4:購買決定者と利用者が異なる

BtoCでは自分が使うものを自分で買いますが、BtoBでは「使う人」と「決める人」が違うケースが多いです。
このギャップを埋めることがインサイト発掘の鍵です。

  • 利用者インサイト:「もっと作業を楽にしたい」
  • 決裁者インサイト:「投資対効果を示す数字が欲しい」

両者を満たさなければ、導入は前に進みません。


特徴5:顧客自身も気づいていない“構造的課題”が多い

BtoCのインサイトは比較的わかりやすい感情に根差していますが、BtoBの場合は「業務プロセスの非効率」「市場環境の変化」「人材不足」といった構造的な課題に潜んでいることが多いです。
担当者自身もそれをうまく言語化できていない場合があり、そこを洞察することが提供側の腕の見せ所になります。


BtoCとBtoBのインサイト比較表

項目 BtoC BtoB
購買の主体 個人 組織
中心となる要因 感情(楽しい・安心・自慢したい) リスク回避・合理性・組織内調整
購買決定者と利用者 同一人物 異なる場合が多い
リスク 小さい(失敗しても個人の範囲) 大きい(会社の損失+担当者の評価リスク)
インサイトの例 「自分をよく見せたい」 「導入失敗でキャリアを失いたくない」

BtoBにおけるインサイトの掘り起こし方

では、BtoBにおいてインサイトをどう発掘すればよいのでしょうか。
ポイントは 「個人の感情」と「組織の事情」の両方を理解すること です。

1. N1インタビュー

実際の導入担当者に深掘りして聞く。

  • 「なぜそれが必要だと思ったのか?」
  • 「もし導入できなかったら、どんな困りごとが残るのか?」

2. 失注理由の分析

競合に負けた案件の理由を掘り下げると、「予算がなかった」以上のインサイトが見えてきます。
例:「上司に説明できる材料が足りなかった」など。

3. 社内ステークホルダーのマッピング

利用者・決裁者・経営層、それぞれの視点でインサイトを整理する。


まとめ:BtoBインサイトは「個人×組織」の二重構造

  • インサイトの定義はBtoCもBtoBも同じ、「顧客自身も気づいていない本当の欲求」。
  • ただしBtoBでは、
    1. 組織の事情が絡む
    2. リスク回避心理が強い
    3. 導入後のストーリーが重要
    4. 購買者と利用者が異なる
    5. 構造的課題が多い

つまりBtoBインサイトを掴むには、担当者個人の感情と、組織全体の事情の両方に目を向けることが不可欠です。

インサイトを正しく捉えたマーケティングは、「この会社は自分たちの課題を理解してくれている」と顧客に感じさせ、信頼を生み出します。
そしてその信頼こそが、BtoBビジネスにおける最大の武器となるのです。