
サステナブル展示会の時代──デジタルツインが減らす移動・輸送・印刷コスト
展示会は、製造業やBtoB企業にとって欠かせない営業・マーケティングの舞台です。
しかしその裏側では、膨大な移動・輸送・印刷コストが発生しています。
出展企業はブース装飾のために大量の資材を製作し、製品を現地に輸送し、
営業担当者は全国から出張。来場者もまた、多くが飛行機や新幹線で会場へ移動します。
展示会が終われば、印刷物は破棄され、ブース装飾は再利用できないまま廃棄。
こうした「1回限りの消費」は、サステナビリティの観点から見直しが求められる時代に入っています。
そこで注目されているのが、**デジタルツインを活用した“サステナブル展示会”**です。
この記事では、ESG・環境配慮の観点から、デジタルツインがもたらす展示会変革の可能性を解説します。
デジタルツインとは──“現実を映す”だけではない
デジタルツインとは、現実世界のモノ・設備・空間を、デジタル空間上で再現し、リアルタイムに連動させる技術です。
もともとは製造業の設計や運用で活用されてきましたが、近年はマーケティングや展示会の分野にも拡大しています。
3Dモデルやシミュレーションを活用し、
実際の展示会ブースや製品をデジタル上に再現することで、どこからでも体験できる仮想展示会を実現できるのです。
この「デジタルツイン展示会」は、単なる代替手段ではなく、
環境負荷を大きく削減しながら、展示会の価値を高める“新しい選択肢”になりつつあります。
展示会が生み出す3つの環境負荷
まず、従来の展示会がどれほどの環境負荷を抱えているかを整理してみましょう。
① 移動によるCO₂排出
展示会は、企業担当者・代理店・来場者が一斉に集まるイベントです。
たとえば東京ビッグサイトで開催される展示会に、全国から出展者500社・来場者5万人が参加したとします。
1人あたり往復400kmを新幹線で移動すると仮定すると、
CO₂排出量は**約4000トン(杉の木30万本分の吸収量)**に相当します。
しかも、海外展示会となると航空機移動による排出量はさらに膨大です。
いくらビジネス目的とはいえ、この移動量は持続可能な社会にそぐわない規模と言えます。
② 資材輸送とブース施工
展示ブースは、金属フレーム、木材、アクリル、印刷パネルなど、
大量の資材で構成されます。
しかし多くの場合、展示終了後に再利用されるのは一部のみで、
装飾やパネルはそのまま廃棄されます。
ブース1小間あたりの平均廃棄物は約500kg。
中規模展示会(300社出展)では、合計150トン以上の資材廃棄が発生すると言われています。
この搬入・搬出・廃棄のために大型トラックが何十台も動き、
資源だけでなくエネルギーも消費しているのが現実です。
③ 印刷物とノベルティ
展示会では、来場者に配布するパンフレットやカタログ、チラシ、ノベルティが欠かせません。
しかし、それらの多くはイベント終了後に廃棄される運命です。
1社あたり数千部の印刷物を用意すると、
インク・紙・輸送すべてに環境負荷がかかります。
しかも近年は「持ち帰っても読まれない」傾向が強く、
印刷物のROIは年々低下しています。
デジタルツインがもたらす“サステナブルな展示体験”
ここで登場するのが、デジタルツイン展示会です。
製品やブースを3Dで再現し、Web上で体験できるようにすることで、
これら3つの環境負荷を劇的に削減できます。
① “移動ゼロ”で来場できる
デジタルツイン展示会の最大の特徴は、来場者も出展者も移動が不要なこと。
オンライン上でアクセスすれば、全国どこからでも展示会を体験できます。
- 出展企業:出張・宿泊費の削減
- 来場者:移動時間・交通費の削減
- 環境:CO₂排出量の大幅削減
特に、海外顧客を対象とする企業にとっては、物理的距離の壁を越えてグローバルに商談できるという大きなメリットがあります。
② “輸送ゼロ”でブースを再現できる
実機を輸送する代わりに、製品の3Dモデルを展示します。
これにより、トラック輸送・梱包・搬入などに伴う環境負荷が一切発生しません。
さらに、3D空間では「透過」「拡大」「分解表示」など、
リアルでは不可能な表現が可能です。
現物以上に伝わる展示体験を提供できるのも大きな価値です。
また、一度作ったデジタルツインブースは、
別の展示会やWebサイトでも再利用が可能。
“1回限りで終わらない展示資産”として活用できます。
③ “印刷ゼロ”で情報提供できる
デジタルツイン展示会では、パンフレットやチラシの代わりに、
Web上で動画・3Dモデル・PDF資料を提供できます。
しかも、アクセスデータを解析すれば、
「どの資料が何回見られたか」「どの製品に興味を持たれたか」など、
リアル展示会では得られなかった行動データの可視化が可能です。
紙を使わず、かつマーケティング精度が上がる。
環境と成果の両立を実現する仕組みです。
ESG経営と展示会の再設計
ESG(環境・社会・ガバナンス)の観点から見ても、
展示会のデジタル化は重要なテーマです。
① E(Environment):環境負荷削減
- CO₂排出量の削減(移動・輸送・廃棄の最小化)
- 紙資源・印刷コストの削減
- ブース資材の再利用・デジタル化
企業のカーボンニュートラル目標に直結するアクションとして、
展示会のDXは非常にわかりやすい成果を出せます。
② S(Social):誰もが参加できる展示会
リアル展示会は、地理・時間・体力の制約があります。
デジタルツイン展示会なら、場所に関係なく誰でもアクセスでき、
障害者・育児中の社員・地方企業にも平等な機会を提供できます。
これにより、展示会がより“社会的に開かれた場”へと進化します。
③ G(Governance):データドリブンな意思決定
従来の展示会は、成果を「名刺の枚数」でしか評価できませんでした。
デジタルツインを導入すれば、来場ログ・視聴データ・クリック履歴などが自動で蓄積され、
マーケティングのPDCAを高速に回すことができます。
「環境配慮」と「データ活用」を両立するガバナンスの仕組みとして、
展示会DXはESG経営における象徴的な取り組みになり得ます。
実際の導入効果:コスト削減と環境貢献の両立
デジタルツイン展示会の導入企業では、次のような効果が報告されています。
| 項目 | 従来型展示会 | デジタルツイン展示会 | 削減効果 |
|---|---|---|---|
| 出展費用 | 約300万円 | 約80万円 | 約70%削減 |
| 出張・宿泊費 | 約50万円 | 0円 | 100%削減 |
| 印刷・配布物 | 約30万円 | 約5万円 | 約80%削減 |
| CO₂排出量 | 約10t | 約0.5t | 約95%削減 |
さらに、デジタルツインを一度構築すれば、
自社サイト・営業提案・研修などにも再利用可能です。
一過性の出展ではなく、長期的に価値を生むデジタル資産として活用できます。
「リアル or デジタル」ではなく「リアル × デジタル」
ここで誤解してはいけないのは、
デジタルツインが「リアル展示会の代替」ではないという点です。
重要なのは、リアルとデジタルを組み合わせて、体験価値と環境価値を両立することです。
- 展示会前:デジタルツインで事前体験・アポイント促進
- 展示会中:現地での体験を強化(3Dで構造説明など)
- 展示会後:オンライン展示でフォローアップ
このように、デジタルツインは展示会の全フェーズでサステナブルな価値循環をつくる技術なのです。
未来の展示会は「持続可能な体験」へ
これまで展示会は「大量に作って、一度使って、壊す」モデルでした。
しかし、これからは「一度作って、何度も使う」モデルへと変わります。
デジタルツインを活用すれば、
展示空間も、製品デモも、顧客体験も、すべてが循環型の仕組みになります。
- 一度制作した3Dモデルを繰り返し活用
- 展示データを分析して次回に反映
- 世界中の顧客に同じ体験を提供
これはまさに、サステナブル展示会の新しい時代です。
おわりに:環境配慮が“選ばれる理由”になる時代へ
企業のサステナビリティは、もはやCSR(社会貢献)ではなく、競争力の源泉です。
「環境に配慮した展示活動をしている企業」は、それだけで顧客や投資家からの信頼を得やすくなります。
デジタルツインは、単なる技術ではなく、
環境配慮・コスト効率・顧客体験を同時に向上させる“戦略的な選択肢”です。
リアル展示会の文化を尊重しつつ、
その体験をよりサステナブルに、より価値のある形で再設計していく。
それが、これからのサステナブル展示会の時代です。




