
展示会のCPLをどう捉えるべきか? ― 製造業BtoBにおける費用対効果の本当の計算方法 ―
展示会は「高い」とよく言われます。
たしかに、数字だけを並べると、うなずいてしまう金額です。
出展料が200万〜500万円。
そこにブース設営で100万〜300万円。
人件費や交通費、カタログやパネル、ノベルティ、動画制作……細かな費用が積み上がって、気づけば総額500万〜1,000万円規模になることも珍しくありません。
この「高い」を説明したくなるとき、よく登場するのが CPL です。
CPL(Cost Per Lead)は「1リードを獲得するのに、いくらかかったか」という指標。
展示会の成果を“ひとまず”数値化できる、便利なものさしです。
ただし、ここで一度、深呼吸しておきたい。
製造業BtoB、とくにエンタープライズに近い案件では、CPLという指標が、わかりやすいぶんだけ危険にもなります。
なぜなら、製造業の受注は、SaaSのように短距離走ではなく、長距離走だからです。
しかもゴールは、1回きりでは終わらない。更新があり、増設があり、保守があり、横展開がある。LTVは長く、複雑で、そして遅れてやってくる。
だから本記事では、「CPLを否定する」のではなく、CPLをどこに置くべきかを整理します。
展示会の費用対効果をどう計算し、どこで判断を誤りやすいのか。
そして、製造業BtoBでは何を“本当の成果”として扱うべきか。
その呼吸まで含めて、丁寧に言語化します。
1. CPLとは何か。なぜ便利で、なぜ危ういのか
CPL(Cost Per Lead)とは、言ってしまえば「名刺1枚の値段」です。
厳密には名刺に限りませんが、展示会の現場では、最も直感的にイメージできる単位でしょう。
計算式は単純です。
CPL = 展示会総費用 ÷ 獲得リード数
たとえば、総費用が800万円で、獲得名刺が400枚だったとします。
このとき、
- 800万円 ÷ 400 = 2万円
つまり、1リードあたり2万円。
この数字は、会議室で通りがいい。
「展示会のCPLは2万円でした」と言えば、上長にも経営にも説明がしやすい。
他施策(広告、ウェビナー、資料DL)とも比較しやすい。
けれど、便利さの裏には罠があります。
CPLは“入口”の指標です。入口が見えると、人は入口で結論を出したくなる。
しかし製造業BtoBでは、入口で判断すると、だいたい間違えます。
2. 展示会の費用対効果は「段階で」計算すると見えやすい
CPLが入口なら、次に見たいのは「商談単価」「受注単価」です。
展示会を“刈り取りの場”として扱うなら、最低限ここまでは計算したい。
たとえば先ほどと同じ例で、400リードが取れたとします。
このうち商談化する割合が20%なら、商談数は80件です。
- 商談単価:800万円 ÷ 80件 = 10万円
さらに、商談から受注する割合が25%なら、受注は20件。
- 受注単価:800万円 ÷ 20件 = 40万円
そして平均受注単価が300万円なら、売上は6,000万円。
ここまでくれば、「展示会は高いのか?」に一応の答えが出ます。
粗利率が30%だとしても、粗利は1,800万円。
出展費800万円を差し引いても、1,000万円のプラスです。
数字だけ見るなら、成功。
この計算は、間違っていません。
でも、製造業BtoBで怖いのは、**この計算が“正しいのに、正しい意思決定を導かない”**ことがある点です。
3. 製造業BtoBが、単純なCPL評価と相性が悪い理由
SaaSやECは、比較的短いサイクルで結果が出ます。
広告を回して、リードが取れて、商談が発生し、受注が決まる。
もちろん例外はありますが、モデルとしては“短い距離で完結する”ことが多い。
一方、製造業BtoBは、景色が違います。
商談期間が長い
半年〜2年。場合によってはそれ以上。
製造現場の更新タイミングに左右され、技術検討に時間がかかり、稟議の階層も厚い。
展示会で名刺交換したその日に、受注が決まることはほとんどありません。
つまり、展示会直後の受注で評価すると、ほぼ確実に赤字に見えるケースが出てきます。
ここで「展示会はやめよう」と言ってしまうと、翌年以降、さらに受注が取りづらくなります。
なぜなら展示会は、“いま買う人”だけでなく、“いつか買う人”の記憶に入り込む場だからです。
LTVが長い
初回受注が500万円でも、増設で2,000万円が乗ることがある。
保守契約が10年続くこともある。
現場で評価されれば横展開が起き、別ライン、別工場、別拠点に広がる。
つまり、展示会の真の価値は、その年の受注では測れないことがある。
むしろ、測れないことのほうが多い。
意思決定が組織で起きる
製造業の購買は、個人の判断では決まりません。
技術部が見て、生産技術が確認し、購買が比較し、上に稟議を通す。
この構造のなかで展示会は、受注の場というより、**比較検討の最初の「接触」**になりやすい。
展示会の本質は、ここにあります。
展示会は「刈り取り」ではなく、「想起の種まき」になりやすい。
4. 製造業BtoBで重要なのは、数字より先に「想起」を設計すること
設備更新の瞬間は、突然来ます。
現場の制約やトラブルが引き金になることもあれば、上からの方針で急に動き出すこともある。
そのとき、相手の頭の中に、あなたの会社が“候補として”浮かぶかどうか。
これが、実は勝負の8割を決めます。
「あの展示会で見た会社だ」
「あのブース、印象に残ってる」
「確か、ここはこの分野に強かったはず」
この“思い出され方”を、偶然に任せるのか。
それとも設計するのか。
展示会をROIで語るなら、ここを外せません。
5. では、製造業BtoBの展示会ROIはどう設計し、どう測るか
ここからは、CPLを「入口」として使いながら、製造業向けに評価軸を三層に分けて考えます。
第1層:短期ROI(最低限の収支)
まずは当然、短期の数字を押さえます。
- リード数(名刺、問い合わせ、デモ予約)
- 商談化率
- 受注率
ここを見ないのは論外です。
ただしここで結論を出さない。あくまで“健康診断”です。
第2層:中期パイプライン(検討の温度)
展示会後に、相手がどれだけ接触してくれたか。
ここを記録します。
- フォローメールの開封
- 資料DL
- 技術記事の閲覧
- ウェビナー参加
- サンプル依頼
- 再訪問
製造業の意思決定は「複数の接点」で進みます。
だから、受注に至るまでに、どれだけ“接触が積み上がったか”を見る。
ここでのポイントは、回数だけでなく質です。
同じ1回の接触でも、
- 現場担当者の閲覧
- 部長クラスの閲覧
- 役員クラスの閲覧
では意味が違う。
企業規模も違う。
だから「接触回数 × 役職 × 企業規模」のように、重みづけしてパイプラインを見える化するのが現実的です。
第3層:長期LTV(回収の本丸)
そして最後に、時間をかけて追いかけます。
- 初回受注
- 継続契約
- 増設
- 保守
- 横展開
展示会を“投資”として扱うなら、ここまで見ないと正確な評価になりません。
展示会が「高い」と見えるのは、多くの場合、第3層を追っていないからです。
6. 展示会は単体で見ない。タッチポイントを束ねて初めてROIになる
製造業BtoBの展示会は、単発イベントではなく、接点設計の起点です。
展示会
→ フォロー
→ 技術資料
→ ウェビナー
→ 個別相談
→ 現場見学
→ 稟議支援
この流れがつながって初めて、展示会は投資として回収されます。
ここまでくると、CPLよりもむしろ、
CPT(Cost Per Touch:1接触あたりコスト)
の発想が効いてきます。
展示会で接点を作り、接点の単価を下げ、接触回数を積み上げる。
そして想起を強める。
展示会をROIで語るなら、展示会後の設計まで含めて語る必要があります。
7. 製造業型の現実的なシミュレーション
最後に、よくある「短期だと赤字、長期だと黒字」の例を置きます。
- 出展費:1,000万円
- リード:300
- 即受注:3件(売上900万円)
これだけ見ると、赤字です。
しかし実際には、ここから時間差で回収が始まります。
- 2年後受注:5件
- 5年以内の追加受注:7件
- 総売上:8,000万円
このとき展示会は、ようやく“投資として成立”します。
そして、こういう回収が起きるからこそ、製造業の展示会はなくならない。
結論:CPLは出発点。勝負は「想起を設計できるか」で決まる
CPLは重要です。
ただし、それは入口です。
製造業BtoBでは、展示会の成果は「名刺の枚数」だけでは決まりません。
むしろ、
- 何人集めたか
ではなく - 何回、想起させたか
が本質です。
展示会は刈り取りではなく、種まき。
そして、種は放っておいても育ちません。
育てるのは、タッチポイント設計です。
展示会後の接点をどう束ね、どんな順序で、どんなコンテンツで、相手の記憶に自社を残すか。
CPLは出発点にすぎない。
本当の費用対効果は、展示会の外側――その後の設計で決まります。




