製造業BtoBマーケティングの「ラストワンマイル」で、なぜ勝てるはずの将棋を落とすのか?

製造業BtoBマーケティングの「ラストワンマイル」で、なぜ勝てるはずの将棋を落とすのか?

BtoBMarketingコンテンツマーケティングデジタルマーケティング営業DX展示会

マーケティングチームは完璧な仕事をしていた。
展示会で名刺を集め、お礼メールを送り、Webサイトへ誘導し、ホワイトペーパーをダウンロードさせ、ついに「製品の仕様について詳しく知りたい」という問い合わせ(ホットリード)を獲得した。

将棋で言えば、序盤・中盤の駒組みを終え、相手玉を「詰み」の一歩手前まで追い込んだ状態だ。
あとは営業部門が「王手」をかけるだけ──。

しかし、ここで悲劇が起きる。

連絡を受けた営業担当者は、その顧客に電話をかけ、こう言ってしまうのだ。
「弊社にご関心をお持ちいただきありがとうございます。ところで、御社はどのような事業をされているのでしょうか?」

顧客の熱量は一瞬で冷める。
「さっきWebで御社の事例を散々読み込んで、具体的な課題解決の相談をしたかったのに、また『会社紹介』からやり直すのか?」

これが、製造業BtoBで頻発している**「ラストワンマイルの断絶」**だ。

マーケティングがどれほど美しい定石を積み上げても、最後のバトンを受け取る営業がその文脈(コンテキスト)を理解していなければ、すべては水泡に帰す。
本稿では、この「ラストワンマイル」に潜む構造的な欠陥と、それを埋めるための具体的な解決策について論じる。


🏗 1. 「ラストワンマイル」とは何か?──もっとも危険な情報の空白地帯

物流業界における「ラストワンマイル」は、配送センターから顧客の玄関先までの最後の区間を指す。ここが最もコストがかかり、トラブルが起きやすい。

製造業のマーケティングにおいても、全く同じ現象が起きている。
ここでのラストワンマイルとは、**「マーケティング部門が育成したリード(見込み客)を、営業部門に引き渡す瞬間」**のことだ。

なぜこの区間で事故が起きるのか?

多くの企業では、マーケティングと営業が「別のゲーム」をプレイしている。

  • マーケティングのゴール: リード獲得数(MQL)、Webアクセス数、資料DL数
  • 営業のゴール: 受注金額、売上達成率

このKPIの断絶が、情報の断絶を生む。
マーケティング側は「これだけホットな客を渡したのだから、あとは営業の腕次第だ」と考える。
一方、営業側は「マーケから来るリードは玉石混交で、確度が低い。とりあえず一律のトークスクリプトで捌こう」と考える。

この相互不信の谷間こそが「ラストワンマイル」の実体だ。
そして、この谷底には、数え切れないほどの「本来なら受注できたはずの案件」が死屍累々と横たわっている。


🔄 2. 「リセットボタン」を押す営業、失望する顧客

冒頭の例に戻ろう。
顧客がWebサイトで「半導体製造装置向けの冷却ユニット」の技術資料を熟読し、導入シミュレーションまで行っていたとする。この時点で、顧客の頭の中はすでに**「具体的な導入検討フェーズ」**にある。

しかし、営業担当者がその経緯(コンテキスト)を知らされずに訪問すると、どうなるか。

営業は、カバンから会社案内を取り出し、創業の歴史から語り始める。
「弊社は1960年創業でして、モーターの製造から始まり……」

これは将棋で言えば、**「終盤の寄せに入っているのに、突然駒を初期配置に戻して『歩』を突き始める」**ようなものだ。

顧客からすれば、
「いや、御社の歴史はもうWebで見た。私が知りたいのは、この冷却ユニットがウチの既存ラインのスペース(幅800mm)に収まるかどうか、その一点なんだ」
と言いたくなる。

顧客体験の分断

顧客にとって、Webサイトも、メルマガも、営業担当者も、すべて「同じ企業(ブランド)」だ。
しかし企業側は、縦割り組織の都合で対応を分断してしまう。

顧客がこれまでのプロセスで積み上げてきた「学習」や「関心」を、営業担当者が**「リセットボタン」を押して無に帰してしまう。
この
「話が通じないコスト」**を嫌い、顧客は競合他社──話が早く、文脈を理解してくれる企業──へと流れていく。


🛡 3. 製造業特有の心理:「失敗への恐怖」を払拭できない

なぜ「文脈の共有」がそこまで重要なのか。
それは、製造業の購買プロセスにおける決定的な心理要因、**「失敗への恐怖(リスク回避)」**があるからだ。

製造業の担当者が新しい部品や装置を導入する際、最も恐れていることは何か。
「性能が最高ではないこと」ではない。
**「ラインを止めてしまうこと」**だ。

もし新しい装置を入れてトラブルが起きれば、数千万、数億の損害が出る。担当者の首が飛びかねない。
だからこそ、彼らは慎重に情報を集め、「ここは信頼できるか?」「トラブル時のサポートは万全か?」を確認しようとする。

マーケティング段階で、彼らはすでに「リスクの検証」を始めている。
「保守メンテナンスのページ」を何度も見ていたり、「過去のトラブル事例」を検索していたりする。

営業が見落とす「守りの一手」

もし営業担当者がこのログ(足跡)を知っていれば、最初の挨拶はこう変わるはずだ。

「〇〇様、先日は保守体制のページをご覧いただきありがとうございます。本日は、万が一のトラブル時に弊社のエンジニアがどう動くか、その体制図をお持ちしました」

これが「定石」だ。
相手が「守り(リスク回避)」を気にしているなら、こちらも「守り(安心感)」を提示する。

しかし、ラストワンマイルで情報が途切れていると、営業は空気も読めずに「攻め(新機能のスペック自慢)」をしてしまう。
「今回の新製品は処理速度が2倍でして!」
顧客の心の中では(速さはいいから、止まらない証拠を見せてくれ……)という不安が増大する。

文脈を知らない営業は、顧客の「見えない恐怖」を解消できないのだ。


♟ 4. 将棋のメタファー:マーケティングは「お膳立て」、営業は「指し手」

この関係性を改めて将棋で例えよう。

  • マーケティング部門=「軍師(参謀)」
    盤面全体を見渡し、敵(顧客)の動きを分析し、地雷を除去し、有利な局面(ホットリード)を作り上げる役割。
  • 営業部門=「対局者(指し手)」
    実際に盤の前に座り、相手と対峙し、最後の一手を指して勝負を決める役割。

敗因は「盤面を見ない」こと

ラストワンマイルの断絶とは、参謀が作った有利な局面を、対局者が見ずに指してしまうことだ。

  • 参謀(マーケ):「相手の守りは右側が薄いです。そこを攻めるために、あえて左側に囮(おとり)の資料を投げ、関心を誘導しておきました。今は右側が無防備です!ここを攻めてください!」
  • 対局者(営業):「(その報告を聞かずに)よし、とりあえず正面突破だ! 新製品カタログ、突撃!」
  • 参謀:「ああ……そこは一番防御が厚い(競合他社が入り込んでいる)ところなのに……」

勝てるはずの勝負を落とす企業のほとんどが、このコミュニケーションミスを犯している。
マーケティング施策の良し悪し以前に、**「盤面の引き継ぎ」**が行われていないのだ。


🌉 5. ラストワンマイルを繋ぐための具体的処方箋

では、どうすればこの断絶を埋められるのか。
精神論(「営業とマーケは仲良くしよう」)では解決しない。
システムと仕組みで解決する必要がある。

① インサイドセールスの設置(ハブ機能)

マーケと営業の間に、翻訳者としての「インサイドセールス」を置く企業が増えている。
彼らは単なるテレアポ部隊ではない。
マーケティングが集めた情報の「文脈」を読み解き、営業に「次はどう指すべきか」を指示する司令塔だ。

② スコアリングではなく「興味関心」を渡す

多くのMA(マーケティングオートメーション)ツールは「スコア(確度)」を弾き出す。「この客は80点」といった具合だ。
しかし、営業にとって80点という数字はどうでもいい。
必要なのは**「なぜ80点なのか?」**という理由だ。

  • 「価格ページを3回見たから」なのか?
  • 「技術仕様書をDLしたから」なのか?

渡すべきは点数ではなく、「顧客が何に悩み、何を欲しているか」というストーリーだ。
「この顧客は『耐久性』に関するページを重点的に見ています。耐久試験のデータを持っていくと刺さります」というメモが1行あるだけで、営業の成約率は劇的に変わる。


👁 6. Vizlabo的解決策:盤面(コンテキスト)の完全可視化

ここで、Vizlaboのようなデジタルツールの真価が問われる。
Vizlaboが提供するバーチャル展示場や3Dカタログは、単なる「見せるツール」ではない。
**顧客の思考プロセスを記録する「盤面レコーダー」**だ。

従来のWebサイトでは「ページを見た」ことしか分からない。
しかしVizlaboの3D空間内では、より解像度の高い行動ログが取れる。

  • 3Dモデルの「裏側」をわざわざ覗き込んだ(配線や排熱に関心がある?)。
  • 紹介動画の「メンテナンス」のパートだけを繰り返し再生した。
  • 他社製品との比較コーナーで5分間滞留した。

データによる「次の一手」の指示

このログがあれば、ラストワンマイルは劇的にスムーズになる。

マーケティングは営業に対し、こう言えるようになる。

「このお客様、製品スペック自体はもう理解されています。ただ、3Dモデルの『配管接続部』を何度も拡大して見ていました。おそらく、既設パイプとの接続に不安を持っています。訪問時は、接続アダプターの図面と、設置工事の事例写真を真っ先に見せてください」

これこそが、必勝の「定石」だ。
営業はゼロから説明する必要がない。顧客の不安の核心に、ピンポイントで解決策を提示できる。

Vizlaboは、マーケティングと営業が**「同じ盤面」を見るための共通言語**を提供する。


🏁 結論:営業に「新規開拓」をさせるな、「答え合わせ」をさせろ

製造業BtoBマーケティングにおけるラストワンマイルの断絶は、企業にとって最大の機会損失だ。

マーケティング部門の役割は、リード(名刺)を営業に放り投げることではない。
顧客が抱える課題、興味、そして不安──それらを解き明かし、営業が訪問した瞬間に「答え合わせ」をするだけで受注が決まる状態を作ることだ。

  • 定石はある。
  • 盤面も読めている。

あとは、その盤面を営業に手渡すだけだ。
Vizlaboはその「最後の手渡し」を、データと体験によって確実なものにする。
「ラストワンマイル」をつないだ企業だけが、BtoBという難解な将棋を制することができるのだ。